研究課題/領域番号 |
22K14606
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
橘田 晃宜 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (90586546)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 表面プラズモン共鳴分光法 / アルカリ金属析出機構解明 / 金属二次電池開発 / オペランド分析 |
研究実績の概要 |
本研究では、表面プラズモン共鳴分光法を用いた、アルカリ金属の電気化学析出メカニズムの解明を目指している。これまでに、銅薄膜が、表面プラズモン共鳴センサーと、リチウム析出用集電箔として両用できることを見出してきた。そして、数原子層レベルの極微小なリチウム析出さえも、プラズモン共鳴スペクトルのシフトから検出可能であることを明らかにしてきた。 この高いセンシング能力を活用し、リチウムイオン電池の負極表面における、金属析出挙動の解明を試みた。実証例として、高電位負極として知られているチタン酸リチウムを用いた結果、通常の銅箔集電体におけるリチウム析出条件よりも、さらに碑な電位条件下においても、金属リチウムの析出が抑制されることを明らかにした。 さらに、金属リチウム析出だけでなく、金属ナトリウムの析出に関しても調査を試み、同じ電流密度条件下における金属リチウムと金属ナトリウムの析出挙動の比較を試みた。金属析出と溶解サイクル中におけるプラズモン共鳴スペクトル変化の挙動を比較し、それぞれの系における電極/電解液界面被膜の生成と、それに基づいた金属核発生・成長メカニズムの差異に関して議論した。表面プラズモン共鳴スペクトルは、理想的な金属析出/溶解サイクルでは、共鳴周波数の赤方偏移を伴った、再現性の高い変化を示すことが予想される。しかしながら、金属ナトリウム析出において、上記スペクトルの変化は、初回サイクル以降、完全に不可逆的であり、再現しないことが明らかとなった。この傾向は金属リチウム析出とは大きく異なり、すなわち初回の析出時に生じる界面被膜が、その後のサイクルにおける金属析出に著しい影響をもたらすことが明らかとなった。以上よりアルカリ金属の種類によって、界面における金属析出挙動が大きく異なることが、表面プラズモン共鳴法によってはじめて確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで分光系の改良とセルの設計をメインに進めており、おおむね計画通りに進んでいる。初年度に分光ケーブルの改善を実施し、長波長帯域における高感度化を実現した。これにより金属リチウムだけでなく、金属ナトリウム析出における表面プラズモン共鳴スペクトルを、これまで以上に明瞭に捉えることが可能となった。特に定電流析出における金属ナトリウムの表面プラズモン共鳴スペクトルの変化は、金属リチウムに比べてより俊敏であるため、長波長帯域の高感度化は重要な進捗であった。さらに分光器を、これまでの反射測定用の汎用型の物から、透過測定専用の高感度仕様タイプに変更したことで、オペランド表面プラズモン測定の時間分解能を、従来の10倍以上に高めることができるようになった。これにより、これまで以上に高い電流密度条件下での電気化学測定が可能となり、金属析出の極初期の過程も極めて良好且つ鋭敏に補足できるようになった。さらに解析ソフトウェアの更新を行い、電気化学データと分光データの同期解析をより精密に行えるようになった。そのほか、セル設計の工夫に関しては、対極と作用極を、セパレータを介して対向させるような押圧セルを新たに設計し、実際の組電池に近いセル条件での電気化学測定ができるように、電気化学系を改良した。また小型ペルチェ素子と上記の電気化学セルを組み合わせることにより、測定対象としている電気化学界面の温度制御を行えるようにした。現状では温度の精密な制御は実現できていないが、常温でのアルカリ金属析出挙動だけでなく、より高温または低温での析出挙動の解明も可能な、測定仕様を整えることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
当初は、ハイパースペクトルカメラを導入し、作用極における二次元金属析出分布の可視化を試みることを予定していたが、実機の導入コストが予定よりも高額になったため、下記の通り実験計画を変更し、引き続きアルカリ金属析出の初期過程の学理構築を目指す。次年度の計画としてはまず 1. 対極押圧下における金属析出挙動の調査を行う。これまでの測定では、作用極と電解液の界面はフリーな状態であり、金属析出は機械的に自由な状況下で進行しているが、実際の電池はセパレータを介して対極が押圧された状態で反応が進行する。実際の組み電池に近い状況を再現するためのセルを新たに設計し、対極として金属リチウムや正極材料の塗工電極などを用い、金属リチウム二次電池やアノードフリー二次電池を模した界面を再現する。また、その界面で生じる金属析出が、フリーな状態における金属析出とどのように異なるのかを表面プラズモン共鳴によって調査する。上記の調査を、セパレータの種類、押しつけ圧力、電解液の種類などを様々に振って調査し、安定な金属析出の実現可能性を調査する。また、上記の測定を 2. 高温または低温環境下で行い、金属析出様態、特に微小核発生のメカニズムについて、スペクトルの挙動を追跡しながら議論する。対極の押しつけ圧力・電解液の種類・セパレータの種類・温度条件といった、幅広い実験条件を網羅的に試行するのは、時間的に厳しいと思われる。この点に関しては、実際の電池の技術的な要請を鑑みつつ進める。具体的には電解液として、良好な金属析出が期待されている FSA アニオン/エーテル系や、濃厚電解質系、イオン液体系などをより重点的に調査する。またセパレータとしては不織布またはポリイミド系を調査する。アノードフリー電池に関しては、正極活物質として一般的な LiCoO2 または LiMn2O4 系を中心に、その塗工電極を対極として用いる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、電極表面の二次元可視化を行うための評価セルや、治具の設計と試作を行う予定であったが、スペクトルカメラの導入が難しくなったため、予定の変更が必要となり、結果的に当該年度に必要としていた経費の一部を、次年度に繰り越すこととなった。繰り越した費用に関しては、次年度の研究に使用予定である。具体的にはセルの設計と消耗品の購入に充当する。セパレータや電解液、正極活物質などを新たに購入する予定である。
|