薄ディスクレーザーはその優れた徐熱性能と低非線形性から、現在最も高い出力の超短パルスレーザーを実現できる方式である。本研究ではこの薄ディスクレーザー媒質の作製プロセスに焦点を当て、これまでを凌駕する極小の熱抵抗を実現することで、薄ディスクレーザーの更なるパワースケーリングを目指した。 具体的には(a)高熱伝導・極薄型利得媒質、(b) 超低熱抵抗接合法、(c) 合成ダイヤモンド製ヒートシンクの3点の技術を開発・採用することで、モジュール全体で0.1 K/cm2Wの熱抵抗、15 kW/cm2の励起密度耐性を目指した。 一年目には接合装置の開発、熱抵抗測定系の構築、そして接合条件の最適化を行った。装置は圧力印可装置、加熱装置、紫外線照射装置からなり、圧力及び温度を調整しながら接合を行うことで条件の最適化を行える。熱抵抗の測定にはレーザーを熱源として用いた定常熱流法測定系を構築した。実際に開発した接合装置を用いて、模擬利得媒質を用いた接合試験を行い、熱抵抗の評価を行った。その結果として、 最適な条件では全体の熱抵抗0.163 Kcm2/W、接合層の熱抵抗0.009 Kcm2/Wという値を得た。模擬ではなく実際の利得媒質をもちいた時の全体熱抵抗は0.084 Kcm2/Wと予測され、当初の目標を達成できる見込みである。 二年目には利得媒質としてYb:KLuWを用いて作製した薄ディスクモジュールを用いて実際に高出力レーザー発振実験を行った。連続波発振実験では最大平均出力138 W、 スロープ効率 62%を得た。このとき最大励起密度は4.98 kW/cm2、最大表面温度は80℃であり、そこから計算される実効的熱抵抗は0.198 K/cm2Wであった。Yb:KLuWは熱伝導率の比較的小さい材料であるため、接合の熱抵抗は十分に小さい値と推測され、本研究で開発した接合法の優位性が実証された。
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