研究課題/領域番号 |
22K14627
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
関 亜美 東北大学, 工学研究科, 助教 (80912328)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 放射性廃棄物処分 / セレン / カルシウムシリケート水和物 / セメント系材料 / 収着 |
研究実績の概要 |
放射性廃棄物処分場周辺では、処分施設の建設に用いられる多量のセメント系材料と地下水とが接触することで、セメントの主成分でもあるカルシウムシリケート水和物(CSH)が二次鉱物として生成する。本研究では、CSHが有する核種収着能に着目し、これまで報告例が少ない陰イオン核種収着のなかでも、地層処分システムにおける被ばく線量支配核種の一つであるセレン(Se-79、半減期30万年)について、その収着挙動および収着機構を解明し、CSHのバリア機能を示すことを目的としている。以下に、設定した2つの検討課題における本年度の成果を示す。 【検討課題1:地下の冠水環境において生成するCSH種の生成機構の整理】 本年度は、淡水系におけるCSHの生成機構を3ヶ月間の養生により検討した。固液分離後の固相のラマンスペクトルより、シリカ鎖の重合度は養生時間の経過に伴い緩やかに増大した。一方、固相のラマンスペクトルおよびX線回折パターンより、CSHは調製後速やかに生成し、液相のpHおよび液固比は養生期間7-28日程度で概ね定常化した。 【検討課題2:CSH種のSe収着能および収着機構の解明】 CSHへのセレン酸イオンおよび亜セレン酸イオンの収着挙動を検討した。1 mMに調製したセレン溶液を用いた収着実験により、養生期間7-28日程度で概ね収着平衡に達し、セレン酸イオンでは50%以上、亜セレン酸イオンでは100%近くの収着率を示した。また、いずれの形態においても高Ca/Siモル比であるほど高い収着率を示し、これは、Ca/Siモル比 1.2以上ではCSHの表面が正に帯電するため、陰イオンとの相互作用が起こりやすいことによる。さらに、セレンの形態により収着率には大きな差が見られ、電荷の偏りによって陽イオンであるカルシウムイオンとの親和性が異なることが一因であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度である本年度は、【検討課題1】については上記のように淡水系におけるCSHの生成機構の解明を試みた。この他、次年度以降に予定しているAlを共存させた系におけるCSHの構造解析に用いる固体NMR(Si-29)について、予備的に測定条件を検討し、最適化を行った。さらに、当初から予定していたバッチ式によるCSHの養生実験に加えて、地下環境を模擬し花崗岩を組み込んだマイクロフローセルによる流動実験を行い、浸透率、カルシウム濃度変化、および花崗岩の表面観察からもCSHの生成機構を検討した。その結果、CSHの生成反応は岩盤からのケイ酸の溶解が律速となり、カルシウムとケイ酸が接触することで速やかに生成することが示されている。 【検討課題2】については、当初の研究計画では2年目に着手する予定だったが、既に1mMの条件において上記の成果が得られている。亜セレン酸イオンについては電荷の偏りによるカルシウムイオンとの相互作用のしやすさから高い収着率を示したが、CSHへの取り込みによる収着の他に、亜セレン酸カルシウムとして沈殿している可能性が考えられる。このため、現在は亜セレン酸カルシウムの溶解度を考慮し、より低濃度の条件における収着実験を進めている。さらに、収着実験はCSHの調製と同時にセレンを添加する共沈条件と、CSH調製後、一定期間養生した後にセレンを添加する水和条件の二通りにより、各収着過程における収着率および収着機構を検討した。セレン酸イオンおよび亜セレン酸イオンのいずれにおいても、共沈条件と水和条件における収着率の差は見られず、ここからも化学的な相互作用により収着していることが示唆されている。 以上のことから、本年度は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在行っている、亜セレン酸カルシウムの溶解度を考慮した低濃度の条件における収着実験に続き、今後は、処分場が沿岸部となった場合には地下水中の塩化ナトリウム濃度が高くなることことを考慮し、塩化ナトリウムが共存する系においても同様に実験を行う。また、処分場の建設材料の一つとして検討されている、汎用のポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグを混合した混合セメントは、普通ポルトランドセメントと比較してアルミニウムの含有量が高い。アルミニウムは、岩盤の珪酸塩鉱物や地下水中にも含まれるため、アルミニウムが共存する系においてもCSHの生成機構およびセレンの収着挙動を検討する。 得られた実験データは、Ca/Siモル比、塩化ナトリウムやアルミニウム共存の有無などによってそれぞれ整理するとともに、収着分配係数および遅延係数を用いてセレンの移行遅延効果を定量的に評価し、処分場周辺に二次生成するCSHのバリア機能を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿費の請求および支払いが年度を跨ぐ形となり、見込み額として計上したために差額が生じた。 差額分は次年度請求分と合わせて消耗品や試薬類の購入に使用する。
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