研究課題/領域番号 |
22K14640
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
堤 拓朗 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80930437)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ポテンシャルエネルギー曲面 / 反応経路 / 反応動力学 / 次元縮約 / 反応空間投影法 / 主成分分析 / 古典的多次元尺度構成法 |
研究実績の概要 |
主要な反応解析理論である反応経路解析法と反応動力学解析法はポテンシャルエネルギー曲面(PES)を介して密接に関連している。研究代表者はこれまでに、反応経路に沿った分子構造データから本質的な座標軸を抽出する反応空間投影法(ReSPer)を開発し、少数座標軸によって張られた低次元反応空間に基づいた反応動力学解析を展開している。本研究課題では、ReSPerを拡張することで低次元PESの構築法を開発し、複数の素反応過程を含むPESの地形に基づいた反応解析理論の確立を目指す。本年度は、昨年度に引き続きReSPerにより求めた主座標軸を元の分子構造に逆変換する手法を開発し、代表的な次元縮約法である主成分分析(PCA)と比較することでその性能を検証した。これまでReSPerは次元縮約法として古典的多次元尺度構成法(CMDS)を利用してきた。CMDSは原理的に座標軸を構造変化のアニメーションとして逆変換することは不可能であることが知られている。一方で、PCAは抽出した座標軸を容易に逆変換することができる。本研究では、PCAから着想を得ることでCMDSに関する座標軸逆変換法を開発した。実際に化学反応経路に適用した結果、PCAで得られた逆変換の結果よりも、CMDSの方が化学的直観と合致するような構造変化アニメーションが得られた。これはアルゴリズムの都合上、CMDSの方がPCAよりも参照構造データの構造的特徴をよく反映した座標軸を抽出できることを反映している。加えて本研究では、複数の反応経路で構成される反応経路ネットワークの低次元化にも取り組み、CMDSは高次元空間におけるネットワーク構造をうまく反映できている一方で、PCAは低次元空間においてネットワークの連結関係すら表現できないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究課題の目標とする低次元PES構築法の根幹をなす座標軸逆変換法を開発し、ReSPerプログラムに実装した。当初の計画では、ReSPerによって抽出した座標軸を構造変化へ逆変換後、少数の座標軸に沿った仮想構造を生成し、電子状態計算を実行することで低次元PESを作成する予定であった。しかしながら、あらかじめ構造情報が与えられていない領域の仮想構造は化学的直観に反するような構造になることが多く、電子状態計算を実行できないという課題に直面した。現在、仮想構造に対する構造緩和計算法の開発に取り組んでいる。以上のことから、本研究課題は申請時点の計画とは異なるものの、低次元PES構築法の開発に向けて着実に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は引き続き低次元PES構築法の開発を目指して、拘束付き構造最適化法の開発に取り組む。現時点では、ReSPerにより定義された二次元反応空間における座標を固定し、それ以外の分子自由度について最適化するような手法を開発する予定である。しかしながら、分子構造が持つ座標パラメータは3N個(Nは原子数)あるため、2本の座標軸のみを参照して生成した仮想構造は化学的および物理的に妥当でないことが多い。今後の研究では、座標を固定する低次元空間の次元を段階的に少なくすることで、段階的に拘束付き構造最適化を実行する方法論を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍購入に充てる予定であったが、経費が不足していたため繰り越した。次年度の経費と合算して書籍を購入する。
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