研究実績の概要 |
炭素数が9から12の脂肪酸について濃度が0.2 mMの酸性水溶液を調製した.CH伸縮振動領域におけるHD-VSFGスペクトルを異なる偏光組み合わせ(SSP, PPP, SPS)で測定した.得られたスペクトルにはCH2基とCH3基に由来するバンドが観測された.脂肪酸炭化水素鎖の配向がall-transである場合,SFGは二次の非線形光学過程なのでCH2基由来の信号は発生しない.CH2基由来の振動バンドが観測されたことから,酸性水溶液中で脂肪酸炭化水素鎖にはgauche欠陥が存在していることがわかった.SSP偏光組み合わせの振動バンドが純水溶液の時よりも幅が太くなっていることから,脂肪酸疎水鎖の配向分布が純水の場合よりも広くなっていると推測できる.
先行研究ではカルボキシ基がプロトン化されている脂肪酸は脱プロトン化されているものより空気/水溶液界面に分布しやすいとされている.酸性水溶液中では全てのカルボキシ基がプロトン化されているので,純水溶液の場合よりも界面における脂肪酸密度が大きくなり,その結果として脂肪酸疎水鎖のパッキングがより密になるので配向分布は狭くなると予想していた.しかし,本研究で得られた結果はこの予想と反していた.この理由を現段階では説明できていない.
CH3の対称伸縮振動の振幅をSSPとPPPで比較することで水/空気界面における脂肪酸のtilt angleを見積もることができる.脂肪酸の純水溶液のtilt angleは炭素数が奇数のものの方が偶数のものより大きい傾向が観測された.しかし,酸性および塩基性水溶液では明確な偶奇性は観測されなかった.カルボキシ基がプロトン化されている状態と脱プロトン化されている状態の両方が存在していることが,水溶液表面での分子配向に影響を与えている可能性があるが本研究ではそれについて十分に考察するための結果を得ることができなかった.
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