研究課題/領域番号 |
22K14645
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 雅明 東京工業大学, 理学院, 助教 (90909384)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | キラル分子 / 配向制御 / クーロン爆発 / 画像観測 |
研究実績の概要 |
本研究は、偏向型量子状態選別器を利用したキラル分子の配向制御とクーロン爆発イメージング法を組み合わせたまったく新しいキラル識別方法の開発を目的とする。状態選別器を利用した分子の配向制御は1980年代から反応動力学研究において盛んに使われた技術であるが、その適用対象は比較的小さく対称性の高い分子が中心であった。本研究ではこの対象をより大きく非対称な分子に拡大して分子のキラル認識に利用せんとするものである。分子のキラリティは分子固定座標系における配座の違いによって生じる性質であり、分子固定座標系と実験室固定座標系の二つの座標系を関連付けられる配向制御技術はキラリティの研究に際して強力な道具となりうる。状態選別には分子偏向型二極状態選別器を採用しており、その評価には実験と計算の比較が不可欠となる。計算に関しては以前に開発したシミュレーションプログラムを使うことができるが、本年度はこれからのシミュレーションの高度化・精緻化に向けて軌道計算部分の見直しを行い速度の改善を行った。また、実験に先んじて大型の実験装置の再配置を行い、実験環境を改善した。レーザーシステムと真空チャンバーを移動し、実験に適した位置関係に設定したうえでそれぞれの再立ち上げを行った。真空チャンバーの再立ち上げは完了してすでに稼働状態にある。レーザーシステムの再立ち上げは現在も進行中であるが、推移は順調である。再配置は最初の計画にはなかったが、実験環境を見直し熟慮の結果、不可欠であると判断し敢行した。その結果、環境の改善だけでなくこれまでは不可能であった装置の改善案も視野に入ることとなり、今後の計画に柔軟性を与えることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともと計画にはなかったことではあるが、実験室の再配置により実験環境が改善され、さらにあらたな改良の可能性が拓かれた。以前は大型の機材であるレーザーシステムと真空チャンバーが離れており、真空チャンバーへレーザーを導入するために長い光路を設計せざるを得なかった。これは調整の難度が高く、また安定性の面からみても不利となる。本年度に実施した再配置によりこれらの距離が近くなり、はるかに短く単純な光路で済むようになった。これが本格的な測定が始まる前に達成されたことは、今後の進行にたいして大きく貢献するものと期待される。また再配置によりチャンバー周辺にスペースができ、真空チャンバーの延伸も可能となった。これは状態選別器の選別能の向上に直結しており、選別の難しい非対称な分子を扱う本テーマにおいて、今後の研究の進捗によっては重要な選択肢となる。重要な光学素子や必要な電子部品などの調達も予想よりは遅れたが、主要なものは無事完了した。実験に関しての基礎が固まり、計画は順調に推移している。 シミュレーションプログラムに関しても軌道計算の基礎部分に改良を加えた結果、大幅な計算速度の向上が実現した。現在までのシミュレーションでは状態選別器の電場形状を非常に簡素な表現で近似することで計算コストを抑えていたが、今回の改善によってより現実的な電場形状を想定することが可能となると期待される。その影響は未知数ではあるが、今後の展望をふまえてより高度な装置設計のためには重要な意味を持つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
実験面では、実験室の再配置のため一度レーザーシステムを停止して移設を行った。現在はこのレーザーの再立ち上げを行っており、可能な限り早い時期に完了する予定である。光路もいったん白紙に戻したが、以前よりもレーザーと真空チャンバーの位置関係がよくなったため以前よりも単純で安定した光路が実現できると期待できる。また、真空チャンバー周りに以前よりもスペースができたために、チャンバーの延伸も予定している。状態選別器の選別能は選別器通過後の飛行距離が長いほどよい。つまり、単純に延伸することによって状態選別器の正味の性能を上げることができる。このチャンバーの延伸についても前向きに検討している。最後に、令和4年度に検出系に必要な主要な電子部品や機材の調達を行った。一部に設計の変更が生じたため、追加で調達するべきものはあるが全体としては軽微な変更で済む見込みである。これらを揃えて、最終的な実験の鍵となるイオン画像観測システムの立ち上げをおこなう。 シミュレーションプログラムの基礎部分の高速化によって、以前よりも計算負荷の高いシミュレーションの実行が可能になった。これを受けて今後はプログラムの高度化を進めていく。現在は偏向型状態選別器の電場形状は解析的に表現できる形にしているが、これは理想形であり近似である。実際には有限要素法などを用いて実際の電場形状を反映させることがシミュレーションの精緻化に重要である。シミュレーションについてはこの電場形状にかかわる部分を改良することで、より現実に近いシミュレーションができるようにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だった高価な高電圧高速スイッチが、別の研究テーマで使用していたものの流用で十分であることが判明したため。繰越金の使途はまず、スイッチの流用のための接続部品等の購入に充てる。これは高額ではないので、残りは実験室の再配置で可能となったチャンバー延伸のために使用する予定である。
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