液体の極端紫外レーザー光電子分光を発展させることで、気液界面の分子の電子状態や構造について研究する方法論を確立した。技術的には、極端紫外レーザー光源の高光子エネルギー化と液膜ジェット法の導入を行った。 極端紫外レーザー光源としては、これまで30 eV以下の光子エネルギーのものを用いていたが、本研究ではより広い範囲の分子種を観測するために最大で56.5 eVのレーザー光を発生させ、電子脱離エネルギーの大きなナトリウムイオンの検出に成功した。 液膜ジェット法は真空中で2つの液体マイクロジェットを衝突させることで発生する膜状の液体流である。従来のマイクロジェットはその直径が20 μm程度であり、100 μm程度のレーザーの集光径よりも小さいため、発生したレーザー光を十分に生かすことができていなかった。発生させた液膜はレーザー集光径よりも十分に大きく、実際に信号強度も10倍程度に増加した。先述の56.5 eVの光強度はかなり弱いため、液膜ジェットを応用することで初めて、観測が現実的な時間で可能になった。 以上の要素技術を用いて、フェノールに代表される両親媒性芳香族分子の水溶液の光電子分光を行い、溶液濃度による気液界面のポテンシャルの変化、気液界面における酸塩基平衡、塩析効果等の気液界面における物理・化学現象を検証した。界面ポテンシャルについて、得られた実験結果は分子動力学計算と比較し、その起源の解明を試みた。この比較は単に実験結果の説明だけにとどまらず、理論モデルの検証にまで波及した。
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