核酸塩基分子は深紫外光を吸収することで電子状態が1ππ*状態へと励起され、ほとんどの分子は1ピコ秒以内に電子基底状態へと緩和するが、一部は1nπ*状態へと移り、その後も電子励起状態を保つことが知られている。本研究では、このような核酸塩基分子における光励起後の電子緩和過程について、超高速光電子分光法による解明を目的としている。 孤立分子状態(気相)におけるウラシル・チミン(5-メチルウラシル)では、1ππ*状態から1nπ*状態への量子収率は、それぞれ45・100%と算出された一方で、溶液内(液相)における算出値は約5・15%と大きく低下することが光電子分光実験によって明らかとなった。これらの結果は各電子状態のエネルギー関係が気相と液相で大きく異なることを示している。またウラシルとチミンの間で収率を比べた場合でも算出値は倍近く異なっている。これはC5に配位したメチル基が分子構造変化を妨げるので、チミンでは電子基底状態への緩和が起こりにくいためと解釈した。この解釈は量子化学計算による理論予測とも整合する。C6に配位した6-メチルウラシルでの追実験を行ったところ、その量子収率はウラシルと非常に近い値が算出され、C5への配位が電子緩和に大きな影響を及ぼすことはほぼ確定的となった。さらに初期の反応ダイナミクスを明瞭に追跡するべく、従来(約100 fs)よりも高時間分解能(10-15 fs)をもつ実験装置での測定も試みている。これらの研究成果は、原著論文として学術誌に投稿・発表された。
|