研究実績の概要 |
有機配位子保護金属クラスターをはじめとするクラスター化合物において見られるクラスターコア構造の柔軟な変化(「構造ゆらぎ」)に対し,それに起因する電子状態変化や機能発現を気相分光・分析手法によって明らかにすることを最終的な目的に研究を推進した。一連の研究により以下の成果を得た。 (1) 柔らかな金属コアを有する偏平型ホスフィン保護金クラスター[Au9(PPh3)8](3+)の構造ゆらぎが緩衝ガスとの衝突によって誘起されることを見出し,それに伴い価電子数の変化を伴うクラスターコア開裂が生じることを明らかにした(J. Phys. Chem. Lett., 14, 5641 (2023).)。 (2) 同手法の対象の拡大を図り,チオラート保護カドミウム硫黄クラスターの衝突誘起解離質量分析実験を推進した。同クラスターにおいてはチオラート1分子の組成の違いが幾何構造および解離エネルギーに顕著に影響することを見出した。現在,構造ゆらぎとの関係の可能性を検討している。 (3) 分子クラスターラジカルイオンである二硫化炭素ダイマー正イオン[(CS2)2](+(dot))において,常温程度の熱エネルギーで構造ゆらぎが生じることを見出し,ゆらぎに伴う電荷共鳴遷移エネルギーの変化を温度可変(極低温or常温)イオントラップ分光によって明らかにした(J. Phys. Chem. Lett., 15, 1493 (2024).) (4) 有機配位子保護金属クラスターの気相分光のためのエレクトロスプレー/極低温イオントラップ分光装置の改良(高感度化)を進めた。具体的に,八極子イオンガイドによって空間的に広がったイオンを効率的に3次元イオントラップ内へと集束させるための「3段型イオンレンズ」を新たに設計・導入したところ,同装置におけるイオン検出効率が大幅に増大し,実際に金属クラスターの気相分光を十分なS/N比で行うことが可能となった。
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