本研究では、光応答性タンパク質発色団分子の構造揺らぎダイナミクスを捉えることを目的として、室温溶液中における単一分子レベルの新規スペクトル相関分光法の開発に取り組んできた。本年度は、前年度までに構築した顕微システムの改良を行なった。具体的には、繰り返し周波数10 MHzのYbレーザーの出力(1028 nm)を非線形光学過程により広帯域パルス(500-850 nm)に変換し、これをサンプルの励起光源とした。さらに、複屈折性結晶を用いた共通光路干渉計を導入し、フーリエ変換分光を可能とした。 この装置の性能を評価するために、蛍光標準色素ATTO647N水溶液の蛍光自己相関測定を様々な濃度で行なった。規格化された相関関数の解析から見積もられた観測領域内の平均分子数は、水溶液の濃度と比例関係を示しており、25 nMの条件ではおよそ1と見積もられた。濃度25 nMにおいて共通光路干渉計を用いて蛍光強度を取得したところ、明確な干渉パターンが得られ、フーリエ変換から得られたスペクトルはATTO647Nの吸収スペクトルをよく再現していることが確認された。 さらに、規格化していない相関関数を共通光路干渉計を用いて取得したところ、相関関数にも明確な干渉パターンが観測された。この干渉信号をフーリエ変換して得られたスペクトルも定常状態の吸収スペクトルをよく再現しており、その強度の時間変化にも溶液中色素の拡散に由来する150 usの減衰が観測された。以上より、本研究で開発された新規分光装置により、単一分子レベルでスペクトル分解した蛍光自己相関関数の測定に成功したことが確認された。
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