研究課題/領域番号 |
22K14653
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
西田 純 分子科学研究所, メゾスコピック計測研究センター, 助教 (10907687)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超高速赤外ナノ分光 / 電子格子相互作用 / 有機鉛ペロブスカイト / 励起子ダイナミクス / カーボン系ナノ材料 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトでは、赤外散乱走査型近接場光顕微鏡(IR s-SNOM)に基づいた超高速赤外ナノイメージングを新たに開発し、それを二次元有機鉛ペロブスカイトに応用することで、ペロブスカイト結晶端における励起子やキャリアの動態を明らかにし、励起子-格子、キャリア-格子の相互作用を明らかにすることを目標とした。本プロジェクト初年度において、干渉検出型可視励起・赤外プローブ近接場顕微鏡を開発し、近接場散乱信号の励起による微弱な変化(<1%)を検出できることを示した。 特にこれを安定なグラファイトナノ結晶系で実証し、結晶端に特徴的なパターンを同定した。現在これがフォトニック的な効果(プラズモンポラリトンやフォノンポラリトンなど)かグラファイトにおける電子-格子相互作用によるものであるのか、慎重に解析を進めている。 さらに、高い感度を生かして同様の実験を単一カーボンナノチューブ内における励起子ダイナミクスを調べるために応用し、信号を検出することができた。カーボンナノチューブ系においても、チューブ内とチューブ端で得られる超高速信号が異なることが分かり、チューブ端における格子ひずみの効果による電子状態への影響が示唆されている。 二次元有機鉛ペロブスカイトについては、グラファイトと同様に剥離によってナノ結晶を調整できること、励起後の緩和時間が十分に早く既存のレーザーで十分に実験が可能であることなどを確認することができた。一方で三次元ペロブスカイト系ではキャリア由来の応答が見られていた<2000 cm-1以下の領域では過渡信号は観測されず、また試料についても当初想定していたよりも光励起に弱いこと、及び表面の平坦性がよくないことが分かった。そこで、励起子由来の過渡吸収が観測されている>3000 cm-1以上の領域で測定ができるように装置のアップグレードを行い、さらに試料をガラス薄膜でキャッピングする方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超高速赤外ナノ分光法を初年度中に開発・実証できたことは大きな進捗であったと考えており、実際により安定で扱いやすいカーボンナノ材料系では過渡信号を高い感度で検出することができた。これらの信号も電子-格子相互作用を反映している可能性があると考えており、有機鉛ペロブスカイトよりもよく理解されている系での挙動を理解することは重要であると考えている。一方で二次元有機鉛ペロブスカイト系については、<2000 cm-1以下では信号が得られないこと、及び試料の安定性と平坦性に当初想定していたよりも課題があることが分かった。励起子由来の吸収があるとされる>3000 cm-1以上の領域で今後測定を行う予定である。平坦性が悪いのは剥離後大気にさらされることによるものではないかと考えており、真空中で剥離してそのままキャッピング層の蒸着を行うことでこの問題を解決できると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度前半中に現在進行しているカーボンナノ材料における超高速ナノダイナミクスの成果をまとめて発表することを目指すとともに、二次元有機鉛ペロブスカイト試料の薄膜において遠隔場の可視パンプ・赤外プローブ透過測定で試料における過渡共鳴のスペクトル応答を調べることを考えている。加えて、キャッピング層で試料を保護した試料を調整し、その安定性を調べる。来年度中盤から後半にかけて、有機鉛ペロブスカイト系に対して本格的な超高速ナノイメージングの測定を行うことを想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
赤外ナノ分光用のステージを当該年度初頭に発注したが、半導体不足によって納品が遅れ、次年度4月の納品となった。来年度分の予算と合わせてステージに使う予定で、残額(125万円程度を想定)は参照パルスの遅延を高速で変調するためのピエゾステージの購入に充てる予定である。
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