初年度に引き続き、赤外散乱走査型近接場光顕微鏡(IR s-SNOM)に基づいた超高速赤外ナノイメージングの改良を行った。本実験では探針先端からの散乱を干渉的に検出することが重要となるが、散乱の光学位相を自動で変えながら超高速信号を時間・空間で取得するプログラムを開発したことで測定のスループットが大幅に向上した。
最終年度前半では超高速赤外ナノイメージングを比較的安定で試料の平坦性・均一性が高い遷移金属ダイカルコゲナイド及び単層カーボンナノチューブへと応用した。前者については、結晶中の欠陥によって誘起される自由キャリアに由来すると考えられる遷移赤外信号が観測され、これが同心円上に不均一に分布していることが分かった。また単層カーボンナノチューブに対しては、チューブ内の局所的な格子歪みに応じて超高速信号が空間的に変調されることが分かり、多様な系に対する励起子やキャリアと格子との相互作用の重要性が示唆された。これらの成果については現在論文を執筆中であり、令和6年度中の発表を目指している。
最終年度後半において、二次元有機鉛ペロブスカイトに重点をおいた測定を行った。初年度の実験の際に試料の平坦性が低いことが課題となったが、これは試料を大気に晒した際に表面が劣化することによるものではないかと考えた。そこで試料を真空下で剥離し、そのままSiO2保護膜を蒸着した。この結果、試料の平坦性が大幅に改善することが確認され、実際に対象とする試料で中赤外領域で幅広く近接場超高速信号を得ることができた(初年度に信号が得られなかったのは、試料の劣化も一因と考えられる)。今後試料の結晶性をより高め、電子-格子あるいは励起子-格子相互作用に本質的な空間的不均一性の観測を目指す。
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