研究課題/領域番号 |
22K14656
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山岸 洋 筑波大学, 数理物質系, 助教 (40824678)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | レーザー / 有機液体 / 共振器 / 液滴 |
研究実績の概要 |
通常の共振器は硬い材料で構成されており、共振機能を維持しつつ形状を柔軟に変化できる微細素子を構築することが困難であった。ここでもし共振器の形状を自在に変調できるようになれば、空間に強く依存する光の機能を変調できるようになり、革新的な光制御を実現できる可能性がある。そこで本研究では、「光共振器は堅い」という常識を打破すべく自在に変形する液滴光共振器を創出し、さらに形状変化と屈折率変調とを組み合わせた2変数光変調が可能な革新的な光モジュレータの開拓を目指した。 本研究ではその成果として、大気中で安定して働く100%液体でできたレーザー光源の開発に成功した。得られた液滴は、大気中でも1ヶ月以上にわたって安定で、その蒸発速度は顕微鏡や光学的な測定では検出できないほど抑えられていた。また、基板に強く吸着し、基板を垂直に立てたり振動させたりしても、落下や移動は生じない。この液滴にレーザー色素を添加してレーザー光源としての機能を調べたところ、およそ1 μJ/cm2という、最も優れた有機マイクロ球体固体レーザーと同等のしきい値でレーザー発振することが明らかになった。液滴は極めて弱い力、例えばごく微量な空気の流れによって変形し、それに伴ってレーザー発振波長が変化する。 液体は、形や位置が定まらないことから、光デバイスとしての利用は限定的であった。本研究で開発した手法により、安定な液体レーザーデバイスを構築することができるようになった。この性質はレーザー光源およびセンシングデバイスとして有用であり、新たな柔らかい光デバイスの実現につながると期待できる。この目的のもと、引き続き研究を進展させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、大気中で安定して働く100%液体でできたレーザー光源の開発を行い、当初の予定以上の性能の素子を開発することに成功している。不揮発性のイオン液体のうち、比較的表面張力が大きなイミダゾール塩を選び、フッ素化した微粒子を塗布した基板上へ滴下した。過去の研究と同様に、通常の滴下手法では接触角が十分に大きくならず、半球状の液滴しか形成しない。そこで、滴下する際の水滴の落下速度を抑え、かつ液滴を十分に小さくした状態で滴下すると、接触角が大きくなり、真球に近い形状の液滴を生成することができた。実験から明らかになった接触角の分散と理論的な考察を合わせて、このとき実現される接触角が準安定状態であることを明らかにした。このようにして得られた液滴は、大気中でも1ヶ月以上にわたって安定で、その蒸発速度は顕微鏡や光学的な測定では検出できないほど抑えられていた。また、基板に強く吸着し、基板を垂直に立てたり振動させたりしても、落下や移動は生じない。 この液滴にレーザー色素を添加してレーザー光源としての機能を調べたところ、およそ1 μJ/cm2という、最も優れた有機マイクロ球体固体レーザーと同等のしきい値でレーザー発振することが明らかになった。液滴は極めて弱い力、例えばごく微量な空気の流れによって変形し、それに伴ってレーザー発振波長が変化する。この変化量は風速によって変化させることができる。また、風による液滴変形のシミュレーション、および変形した液滴内部における電磁場のシミュレーションから、風速による液滴変形の計算結果、および変形によるレーザー波長変化の計算結果が実験結果と符合することを明らかにした。さらに、同様の滴下方法をインクジェットプリンターで実現する手法を開発した。これにより、一定の大きさの液滴を、素早く大量に決まった位置に作製することができる。
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今後の研究の推進方策 |
液体は、形や位置が定まらないことから、光デバイスとしての利用は限定的であった。本研究で開発した手法により、安定な液体レーザーデバイスを構築することができる上、変形や外部刺激応答性といった液体本来の性質を十分に発揮することができる。この性質はレーザー光源およびセンシングデバイスとして有用であり、新たな柔らかい光デバイスの実現につながると期待できる。とくにインクジェットプリンターを使った大規模液滴アレイの作成、基板の改良による性能の均質化、変形を利用したこれまでにない光モジュレーターの開発を進めていく予定である。
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