研究課題/領域番号 |
22K14663
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福井 識人 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (70823277)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有機化学 / 構造有機化学 / 芳香族炭化水素 / HOMO–LUMOギャップ / 機能性π共役分子 / 禁赤外応答 / 骨格内部 / 元素の付加 |
研究実績の概要 |
構造的・電子的に新規な芳香族炭化水素の創出は機能性π共役分子の創製に重要である。とりわけ、狭いHOMO-LUMOギャップ(HLギャップ)を有する芳香族炭化水素の創出は、電子の授受の両方に優れた電子材料や近赤外領域で応答する色素の創製につながる。しかし、狭いHLギャップを示す既存分子の多くは反応性が高く、これらを安定に取り扱うには嵩高い周辺置換基による保護を必要とする。そのため、高密度な集積が求められる電子材料や生体内のような夾雑系で機能す る色素としては本質的には適さない。本提案では、この“狭いHLギャップと安定性の両立”という挑戦的課題を、近年代表者が見出した『異種電子構造の調和』 という視点を実現する分子設計指針の確立によって克服することを目指した。 既に代表者は昨年度の研究で、リレン類の周辺部に5員環を縮環させる、という分子設計が狭いHLギャップと安定性の両立に効果的であることを解明している。これに対し本年度は、過去に報告さした近赤外吸収特性を示す芳香族炭化水素であるインダセノテルリレンの前駆体が、π共役分子の骨格内部に元素が付加した珍しい分子系であることに着目し、骨格内部における置換基効果を系統的に検証した。その結果、酸素原子の付加が電子受容性の向上に効果的であることと、骨格内部の元素の違いに応じてフラーレンとの相互作用が変化することを明らかにした。さらにこの視点を別の芳香族炭化水素であるジベンゾクリセンにも拡張させ、骨格内部に対する元素の付加がキラリティーの安定化や特異な光反応性の実現に効果的であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
既に代表者は昨年度の研究で、リレン類の周辺部に5員環を縮環させる、という分子設計が狭いHLギャップと安定性の両立に効果的であることを解明している。この段階で当初の計画が狙い通りに進行したと言える。これに加え本年度は、研究の遂行中に新たに見出した知見である骨格内部への元素の付加という分子設計が、インダセノテルリレンやジベンゾクリセンといった複数の芳香族炭化水素に及ぼす影響を系統的に検証した。ここで得られた成果はいずれも国際学術誌に報告している。 他には当初計画以上の成果として、お椀型炭化水素であるインダセノテルリレンや平面芳香族炭化水素であるジベンゾクリセンの骨格内部における置換基効果の検証を行った。前者の研究では、骨格内部の炭素上に酸素原子を置換させると、母核となるお椀型π共役系の電子受容性が向上するとともに、そのゲスト包摂挙動に影響が生じることが明らかとなった。また、後者に関しては、骨格内部への置換基の導入によって、キラルな構造が発現するとともに、その置換基の種類によって発光挙動や反応性が変化することがわかった。これまでπ共役分子に対する置換基導入は、標的分子の構造や電子状態を変調する手段として、基礎・応用を問わず世界中で日常的に実施されてきた。π共役分子の周辺部に対する置換基効果についてはその構造物性相関が広く調査されてきたものの、骨格内部に対する置換基効果を系統的に評価した研究は本研究が初めてで、今後の材料開発を支える学術基盤を与えるものと期待される。 以上のことから本提案は当初の計画以上に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、代表者が創出した分子が電子の授受に優れ、かつ立体障害となる置換基を持たないという長所を活かし、有機電子材料としての利用を目指す。具体的には、まずは真空蒸着法によって薄膜を作製し、その移動度を計測することで、両極性有機半導体としての性能を評価する。仮に真空蒸着によって薄膜が与えられなかった場合は分子の周辺にアルキル鎖を導入し、溶解性を向上させ、溶液プロセスによる成膜を検討する。また、臭素などによる化学ドーピングや、テトラチアフルバレン(TTF)やテトラシアノキノジメタン(TCNQ)との共結晶化により、金属的な導電性が発現するかも検証する。さらには安定性が高く、近赤外光に応答し、周辺修飾可能であるという長所を活かし、生体向けの機能性色素としての利用を目指す。具体的には、周辺に水溶性を向上させる周辺置換基を導入し、バイオイメージング材料へと誘導する。また、周辺に臭素などの重元素を導入して項間交差を促進すれば、光線力学療法の増感剤としても活用できると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
合成試薬やガラス器具の購入のために物品費を申請していたが、物品の性質上他のプロジェクトと共有する必要があり、経費としては該当プロジェクトの経費から支出した。その結果、当初の予定よりも助成金の支出が抑えられ、次年度に繰り越すこととした。次年度では、代表者が創出した分子を機能性材料として活用するための検討を進める予定であるが、この検討のための試料の合成のための合成試薬やガラス器具の購入のための物品費として、繰り越した経費を使用する予定である。
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