研究実績の概要 |
蛍光性の柔軟性有機単結晶として知られている9,10-ジブロモアントラセンをホスト分子として有機混晶を作製した。ホスト分子とゲスト分子の混合溶液を室温下で揮発させることで有機混晶を作製した。ゲスト分子(ドーパント)として同対称性の9,10-ジシアノアントラセン、9,10-ジメチルアントラセン、9,10-ジホルミルアントラセンが1-5%程度の混合比率でドープされた有機混晶を作製することができたことに対し、1,8-ジブロモアントラセン、2,7-ジブロモアントラセンといった対称性が異なるアントラセン分子はドープされずにそれぞれの結晶として析出したことから有機混晶の作製には分子形状や対称性の選択が重要であることがわかった。 9,10-ジブロモアントラセン結晶は青色蛍光を示すが、これに9,10-ジホルミルアントラセンをゲスト分子としてドープした有機混晶はフェルスター型のエネルギー移動(FRET)により蛍光はオレンジに大きく長波長シフトすることがわかった。この有機混晶について顕微蛍光スペクトル測定による蛍光導波特性評価を行い、減衰係数(dB/cm)を算出したところ9,10-ジブロモアントラセン結晶で見積もった減衰係数よりも減衰係数は一桁低下した。またゲスト分子のドープ率の上昇に伴って減衰係数は上昇することがわかった。これら混晶化による減衰係数の低下、すなわち蛍光導波効率の向上はFRETによる蛍光波長の長波長シフトによって導波蛍光の結晶内再吸収ロスが抑制されることに由来すると解釈できた。またこれら混晶について単結晶X線構造解析を行うと、9,10-ジブロモアントラセンとほぼ同一の結晶構造としてその構造を明らかにすることができた。作製した有機混晶は柔軟性を維持していたことから適切な分子との混晶化により柔軟性を維持したまま自在に光学特性を変調できるという可能性を示した。
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