研究課題/領域番号 |
22K14674
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
吉田 泰志 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (10773963)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 不斉触媒 / ハロゲン結合 / キラルハロニウム塩 / 有機分子触媒 |
研究実績の概要 |
ハロゲン結合は,電子不足なハロゲン原子とLewis塩基との間に形成される非共有結合性相互作用であり,これまで化学分野において広く用いられて来た水素結合と相補的であるとして近年注目されている。しかし,その不斉触媒分野における応用例は限られていた。本研究では最近,本研究代表者が世界で初めて達成した,高い不斉導入効率を有するLewis酸性ハロゲン結合触媒である「キラルブロモニウム塩」の弱点を克服すべく,第二世代触媒である「キラルビスハロニウム塩」のデザイン・開発を行うとともに,その高活性な新規触媒としての応用を目的とした。2022年度に行った研究は,以下の通りである。 まず,キラルビスブロモニウム塩の開発を行った。出発原料として(R)-BINAMを用い,5段階の変換の後に目的化合物を得ることが出来た。さらに高活性化を期待し,大きな対イオンであるBArF4 (tetrakis[3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl]borate)を有するキラルヨードニウム塩の合成を行ったところ,BF4の場合と比べて高収率で得ることが出来た (Molecular Chirality 2023で発表予定)。 次に,合成できたキラルビスハロニウム塩をハロゲン結合触媒として用いるべく,その不斉反応への応用を試みた。BArF4を対イオンとするキラルビスヨードニウム塩を種々の反応に適用したところ生成物を高収率で得ることができ,従来のモノハロニウム塩触媒を用いる場合と比べて大幅に収率が向上することを見出した(論文作成中)。一方,そのエナンチオ選択性に関しては低くとどまっている。これは,キラルビスヨードニウム塩が高活性なハロゲン結合触媒として機能することを示す結果である。来年度は当初の計画どおり,本触媒を用いた生成物への高度な不斉導入とともに新規反応の開発を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における当初の計画としては,2022年度にキラルビスハロニウム塩の開発とその不斉触媒反応への応用を行い,2023年度にキラルビスハロニウム塩触媒によって達成される新規反応の開発と,高選択性の達成を予定としていた。今年度は当初の予定通り,キラルビスハロニウム塩の開発や,BArF4を対イオンとする高活性なキラルビスヨードニウム塩を開発することが出来,さらにそれらの不斉反応への応用に関しても行うことが出来た(Molecular Chirality 2023で発表予定)。不斉反応への応用に関しては現状,生成物の立体選択性低い結果にとどまっているものの,様々な構造を有する触媒合成が可能となっているため今後,高立体選択性が達成可能な触媒構造の検討を広く行っていく予定である。このように,おおむね当初の計画通り研究は進展している。2023年度は,高立体選択的に進行する反応や基質構造の探索,及び触媒構造のチューニングを行うことで,キラルビスハロニウム塩特有の不斉反応を達成する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策に関しては,まずキラルビスハロニウム塩を用いる新規反応開発を行う。2022年度に,キラルビスハロニウム塩が従来のモノハロニウム塩と比べて高い活性を有することを明らかにしているため,その特徴を生かした活性の低い基質の活性化を検討していく。例えば,ケトンを求電子剤とする付加反応は従来のモノハロニウム塩触媒では達成が困難であったため,本キラルビスハロニウム塩を用いてその達成を目指す。さらに,計画段階で予定していた異なるハロゲン原子を導入したハイブリッド型キラルビスハロニウム塩の開発を行い,その各々が有する特徴を生かした異なる官能基の活性化による新規反応開発を考えている。これまでのところ,異なる官能基を導入したキラルビスハロニウム塩前駆体の合成に成功しているものの,副生成物との分離が困難である問題点があった。その問題点を解決すべく,最近,各々のハロゲン官能基を段階的に導入するルートを考案したため,2023年度はそのルートで合成を行う予定である。 立体選択性に関しては,これまでの研究からイサチン由来のケチミンを求電子剤とすると高選択性が発現しやすい傾向があるため,その反応遷移状態を計算科学により予測することで立体選択性の達成が容易な基質を探索し,それらを用いる新規不斉反応を開拓する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はキラル触媒の骨格を固定し,ビスハロニウム塩骨格の様々な構造の構築が可能かどうかの検討を主に行ったことや,前年に引き続き学会がオンラインで行われるものが多かったため,研究費を当初の予想より使用しない結果となった。次年度は少しずつではあるものの学会が対面で行われるようであり,現在参加を予定している学会はすべて対面実施となっている。また,次年度はキラル骨格の検討を行っていく予定であるため,様々な高価なキラル分子を購入する予定となっている。そのため,次年度使用額はそれらへ充てることで効率的に研究を遂行していく予定である。
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