研究実績の概要 |
ハロゲン原子とLewis塩基との間で働く相互作用により形成されるハロゲン結合は,有機化学において広く用いられている水素結合に置き換わる可能性のある新しい相互作用として近年注目されており,有機合成化学や超分子化学,結晶工学分野等において広く研究されている。本研究課題では,近年申請者が世界で初めて達成した,高い不斉導入効率を有するLewis酸性ハロゲン結合触媒である「キラルブロモニウム塩」の弱点を克服すべく,第二世代触媒である「キラルビスハロニウム塩」のデザイン・開発を目的とした。2022-2023年度に行った研究は,以下の通りである。 まず,キラルビスハロニウム塩としてキラルビスヨードニウム塩を選択し,その合成を行った。出発物質としてBINAM (1,1'-Binaphthyl-2,2'-diamine)を選択し,数段階の変換を行うことでキラルビスヨードニウム塩の合成を達成した。また,ハロゲン原子として臭素原子や塩素原子を用いた分子の合成も試みたものの,精製が困難であった。 次に,合成したキラルビスヨードニウム塩を不斉ハロゲン結合触媒として種々の反応へ適用した。先行研究で,キラルブロモニウム塩を用いた際に良好な結果で生成物が得られていたVinylogous-Mannich反応へ本分子を適用したところ,先行研究の結果を上回ることはできなかった。一方,かさ高い1,3-ジカルボニル化合物を求核剤とするMannich反応へ本分子を触媒として適用したところ,従来のキラルハロニウム塩を用いた場合の選択性(~10% ee)を大幅に超える結果(最高99% ee)で生成物を得ることに成功した(論文作成中)。
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