研究課題/領域番号 |
22K14676
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大村 修平 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (10911662)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ラジカルカチオン / [2+2]環化付加反応 / [4+2]環化付加反応 / 不斉触媒反応 / キラル鉄(III)触媒 |
研究実績の概要 |
医薬品や香料品の生産を支える基幹技術である不斉合成は、過去30年間で急速な発展を遂げてきた。一方、枯渇性資源を用いる手法からの脱却や未達成の不斉触媒反応の開発など、解決すべき課題が多く残っている。本研究の対象であるラジカルカチオンは、不安定で反応性の制御が難しい化学種であり、不斉触媒反応への応用に成功した例はほとんど無かった。 今回、構造最適化されたキラル鉄(III)触媒を用いることで、電子豊富アルケンのラジカルカチオン[4+2]及び[2+2]環化付加反応が高エナンチオ選択的に進行することを見出した。既存の報告例では、不斉ラジカルカチオン[4+2]環化付加反応の生成物の不斉収率は最大でも60%にとどまっていた。それに対して本研究では、生成物を>90%不斉収率で得ることに成功した。 高エナンチオ選択性発現の鍵は、精密に設計されたキラル鉄(III)触媒の構造である。初期検討において、キラルビアリール骨格を有するホスホロアミド鉄(III)塩を用いると生成物が良好な化学収率で得られることが明らかとなった。その後、キラルビアリール骨格の置換基を詳細に検討することで不斉制御に有効な置換基を見出し、最高92%化学収率、98%不斉収率で生成物を得ることに成功した。また、反応条件の検討段階で、青色LEDを反応溶液に照射すると反応が円滑に進行することを見出した。各種分光法およびコントロール実験により、キラル鉄(III)触媒が光レドックス触媒として働くことを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、[4+2]環化付加反応のみを初年度に開発することとしていた。しかし、キラル鉄(III)触媒の構造最適化が計画以上に早く終了したため、研究計画を一部前倒し、[4+2]環化付加反応と[2+2]環化付加反応を並行して開発することとした。結果として、初年度内に両反応を開発することに成功した。また、それぞれの環化付加反応において、構造および電子状態の異なる様々な基質を検討し、本手法が高い基質一般性を有することを確認した。特筆すべき点は、[4+2]環化付加反応で最適化した条件をそのまま[2+2]環化付加反応に適用できる点にある。すなわち、今回開発した手法は、反応様式を超えて応用できる高い実用性および一般性を有していることが伺える。
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今後の研究の推進方策 |
【基質適用範囲の拡大】これまではケトン類を中心に基質を検討し、主に構造の変化に対する基質一般性を検証した。今後は、カルボン酸やエステル、アミド等の様々な官能基を有する基質を検討し、官能基耐性を検証する。本手法は、ラジカルカチオン中間体とキラルカウンターアニオンとの間に潜在的に存在するイオン間相互作用を利用した手法である。したがって、特定の官能基に依存しない高い基質一般性が期待される。
【生物活性天然物の合成】ラジカルカチオン[4+2]環化付加反応は、古典的な熱的[4+2]環化付加反応とは異なるレジオアイソマ-を与えることが知られている。したがって、今回開発した不斉ラジカルカチオン[4+2]環化付加反応を応用して、古典的な手法では達成できなかった生物活性天然物の合成を行う。具体的には、抗酸化剤としての薬効が期待されるheitziamide Aの不斉合成を行う。本研究が達成されれば、heitziamide Aの初めての不斉合成例として、薬理活性の解明や安定供給の実現に貢献する。
【計算化学による不斉制御機構の解明】今回、高い不斉収率の発現に成功したものの、その詳細な不斉制御機構は未解明のままである。計算化学を用いて、キラルカウンターアニオンがラジカルカチオン中間体の反応性を不斉制御する機構を解明する。具体的には、ラジカルカチオン-キラルカウンターアニオンイオン対がアルケンまたはジエンと炭素-炭素結合を形成する段階(不斉誘起段階)の遷移状態を求める。
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