研究課題/領域番号 |
22K14703
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井田 大貴 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (80844422)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 走査型イオンコンダクタンス顕微鏡 / 生細胞イメージング / 電気化学計測 / SICM |
研究実績の概要 |
光学顕微鏡は、低侵襲かつ培養環境下での計測が可能なこともあり、数時間~数日レベルの細胞の長期的な変化を追跡できる。一方で、一般的な光学顕微鏡音は光の回折限界によって空間分解能の下限がおよそ200 nm程度に制限されており、細胞膜表面で生じるナノメートルスケールの変化の追跡には適していない。しかし、それら形態変化は細胞機能に極めて重要であり、エンドサイトーシス系や細胞遊走などに密接に関与している。そこで、様々な細胞観察技術が開発されてきたが、侵襲性の高さなどが大きな課題の一つとなり、一細胞のナノ動態を長期的に観察する事は難しかった。本研究は、細胞表面形状を非侵襲で可視化できる走査型イオンコンダクタンス顕微鏡を用いた長期計測を実現し、細胞老化などの数日スパンに起因する膜動態の変化をナノスケールで評価することを目標としている。 本年度では、研究機関の異動に伴い自作の走査型イオンコンダクタンス顕微鏡の分解・輸送があったものの、細胞計測系および安定してナノスケール形状測定が可能な装置系を再構築できた。また、ナノスケールの開口径を持つガラスピペットを用いて、細胞内から細胞質を回収・評価する技術についても進展があり、ガラスナノピペット表面への修飾や、再現性高く流量制御可能なナノピペットの作製条件の探索などで一定の成果を得られた。機器開発も進行中であり、今後は熱膨張などに由来するイメージの歪みを徹底的に対処しつつ、実際のサンプルの長期計測に踏み込みたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度より、東北大学から名古屋大学に異動し、それに伴い装置系の移設があった。そのため、走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)系やその他の装置を一度解体し、新たな実験室で再度立ち上げる必要があった。ナノスケールの空間分解能を求める繊細な装置であるため、建物の振動や電磁ノイズなどに鋭敏であるが、異動後にも以前の精度で計測できる環境を整えることができた。また、SICM計測にはナノスケールの先端径を持つガラスナノピペットをプローブに用いるが、環境が変化したために作製条件も再検討する必要があった。一方で、ナノピペット作製条件の再検討により、細胞質回収をより安定して実施できる作製条件も確立できた。ナノピペット表面への非特異的な吸着を防止するための表面修飾条件も検討し、修飾による開口径の変化や表面形状の変化をピペット抵抗の変化や電子顕微鏡観察などによって評価した。長期計測系に関しては、ナノスケールの位置制御を担うピエゾステージ上に固定するヒーターとコントローラを稼働でき、電源の調整・検討などを実施した。定量PCR環境も整備でき、長期変動に伴うRNA情報の変化を経時的に評価するための基盤を整備できた。以上により、次年度以降の長期計測系の確立と評価に向けておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
細胞のナノスケール動態を数日スパンで計測するために、ピエゾステージ上で細胞を長期培養可能なSICM系の開発が進行中であり、次年度中の完成と評価を目指す。本報告書を記載している現在、ピエゾステージ上での温度制御には成功しており、装置への組み込み中である。しかし、ヒーター温度の微妙な変化によって生じる熱膨張・収縮が想定よりも大きく、マイクロメートルレベルで計測地点が変化してしまうといった課題が生じている。今後は、温度制御コントローラの換装や熱膨張係数の低い金属へステージ部を置換するなどの施策によって温度変化の影響を低減予定である。また、機械学習系についても現在進展中であり、走査アルゴリズムとPythonを連携予定である。自作ピエゾステージの設計開発も継続して続ける予定であり、長期計測に向けた特徴を有する機器を実現できる見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度には消耗品費として考えていた予算に余剰があり、次年度に持ち越した。該当する金額は次年度の消耗品に充当する予定である。
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