光学顕微鏡は低侵襲での計測が可能であり、数時間~数日レベルで生じるような細胞の長期的な変動も観察できる一方、光の回折限界に起因する空間分解能の限界を抱えている。そこで、細胞のナノスケール形状の計測には電子顕微鏡などの技術が用いられているが、それらは侵襲性が高く細胞の生きた状態を長期間観察することは難しい。走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)は、生細胞を非侵襲かつナノスケールで観察することができるプローブ顕微鏡技術である。本研究では、SICMを細胞老化などの数日レベルで生じるような細胞の長期変動に対して適用し、ナノスケール形状の変化を評価することを目的とした。 研究期間中に研究機関の異動に伴う装置の分解や輸送、培養系の再確立などの必要があったが、SICM系や細胞操作系を同一のレベルで再構築できた。また、SICMのプローブや細胞質の回収に用いるナノスケールのガラスピペットの作製条件の最適化、長期計測のためのヒーターのピエゾステージ上への搭載や種々の調整、ピペットの表面修飾に関して一定の成果が得られた。細胞系では、培養細胞では試薬投与によって細胞老化様の形態変化の誘導に成功したものの、老化関連酸性β-ガラクトシダーゼ染色では老化様形状の細胞とコントロールの細胞との間に差が見られなかった。ただし、老化様の細胞を用いたSICM計測には最終年度後ではあるが現在進行中であり、更に標本数を増やすことで細胞老化により生じる形態変化について一般的な評価が可能になる見込みである。一方で、SICMを用いた細胞老化の長期間観察については研究期間中までに完了することはできなかったため、今後の課題としたい。
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