研究課題/領域番号 |
22K14710
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
斎藤 直樹 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康領域, 研究員 (00635823)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒト尿中代謝物 / qNMR / プレサチュレーションパルス / デュアル照射 / 正確さ |
研究実績の概要 |
前処理不要な1H NMRによるパターン解析により、ヒト尿中代謝物から大腸がんなど疾患の新規指標候補が見出されている。ここで、1H NMRによる定量分析法(以下、qNMR)を適用すれば、標準物質が入手不可能な成分でさえも正確に定量でき得るため、ターゲット代謝物を指標とした疾患リスクの評価等が進展し得る。しかし、ヒト尿に対する現在のqNMRでは、大きなバイアスの存在が示唆されている。本研究では、ヒト尿測定で主たるバイアス要因となり得る溶媒消去パルスのうち、最も単純な古典的プレサチュレーションパルス(以下、pre-SAT)を用いて、水近傍シグナルでも正確かつ簡単に定量できるユニークな手法を開発することを目的とした。 本年度は、各種アミノ酸のD2O溶液を用いて、pre-SATで影響を受ける化学シフト域を明らかにすると共に、照射出力に対する濃度測定値のプロファイルを調べた。残留水1Hシグナルにpre-SAT照射する従来法では、水シグナルからの化学シフト差の絶対値が小さな分析対象成分シグナルほど、大きな濃度低下を示した。この濃度低下は、pre-SAT照射出力の増大により助長され、最大48 %に至った。一方、考案したデュアル照射法では、この濃度低下を3 %以下に抑制できた。このデュアル照射法は、残留水1Hシグナルへのpre-SAT照射と、分析対象成分シグナルごとに適した周波数でのダミーのpre-SAT照射の同時実行を特徴とする。そこで、デュアル照射法の堅牢性評価として、同溶液を用いてダミーpre-SATの照射位置ずれによる影響も明らかにした。さらに、アミノ酸等を溶解した10 vol% D2O/H2O溶液を用いて、考案したデュアル照射法の妥当性確認試験を行い、調製値と良く一致することを確かめた。 以上の結果をまとめ、学会発表すると共に、Analytical Chemistry誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに進めることができており、考案したデュアル照射法の性能評価が進み、学会発表や誌上発表など成果を上げることができたためである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、残された主課題への対応として、ヒト尿標準試料を用いて考案したデュアル照射法の妥当性確認試験を行う予定である。ただし、デュアル照射法により得られる1H NMRスペクトルでは、faraway water(プローブコイル中心から遠く離れた水)由来のブロードなシグナルが残存する。そこで、当該シグナルを抑制できる汎用的な1D NOESY with pre-SAT法にデュアル照射の概念を導入し、デュアル照射法の改良を目指した検討を併せて進める予定である。
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