研究課題
有機物と無機物を複合したハイブリット薄膜太陽電池の低コスト、且つ高透過性を有する全塗布型有機無機太陽電池の開発を目的としている。本年度は特に、n型半導体に亜鉛酸化物を用いた電荷輸送層の相分離構造制御による電化分離/高効率化を中心に研究を実施した。p型半導体高分子としてP3HTもしくはPEDOTFをドナー材料、アクセプター材料として無機酸化物半導体を用いて、太陽電池素子を作製し、電荷分離及び電荷輸送が発現することを確認した。まず、P3HTをドナー材料、アクセプター材料として亜鉛酸化物/チタンアルコキシドとした時、既存のチタンアルコキシドのみを用いた場合に比べ、解放端電圧が増加することを確認した。酸化亜鉛粒子の飽和限界電流の比較から、電荷分離後の再結合確率が減少したためであると推測できる。更に短波長吸収材料であるPEDOTFをドナー材料として採用した際には、金属酸化物半導体との組み合わせにより、P3HTを用いた場合に比べ、さらに開放端電圧が増加することを確認した。本結果より、PEDOTFと亜鉛酸化物の組み合わせはエネルギーレベルの整合性については電荷分離の発現に十分であることが明らかとなった。一方、チタンアルコキシドのみをアクセプター材料として用いた場合に比べ、短絡電流密度が低下していることから、キャリアー輸送性が低いことが推測できる。そこで、SP値を指標とした相分離構造制御手法を用いて改善を試みた結果、異なるSP値の溶媒を用いることにより短絡電流密度が変化することを確認した。高SP値溶媒を用いることにより、短絡電流密度が増加することを見出した。今後は、引き続き最適な発電素子の探索と混合溶媒による検討を行い、高効率化を目指すと共に、サイズ別亜鉛酸化物粒子を添加した条件検討を実施する予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画である酸化物半導体と発電高分子から形成される系で電荷分離を確認することができ、エネルギーレベルの整合が示唆された。一方、相分離構造制御を試みた結果、SP値が異なる溶媒を用いることにより短絡電流密度が増大することを見出した。結果として、金属酸化物の粒子サイズの合成検討段階まで至っている。従って、本研究は当初の計画に対し、おおむね順調に進展していると言える。
金属酸化物の粒子サイズ合成検討に加え、大気下でも発電層を形成可能な単一溶媒における相分離制御を行い、最適な相分離構造を見出す。さらに研究計画に記載のドナー材料の高電子輸送性・層分離制御能の付与について検討を実施する。
当初購入予定だったロータリーエバポレーターをポンプ一式のセット購入に変更した結果、当初計画より経費を節約することができたため、未使用額が発生した。使用計画として、p型半導体試薬に支出予定である。
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