研究課題/領域番号 |
22K14722
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
一二三 遼祐 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (50910147)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ホスフィンスルフィド / 誘電率 / 誘電正接 / 分極機能性ポリマー |
研究実績の概要 |
本研究は「低誘電・高接着を志向したホスフィンスルフィド材料の開発」と題し、最先端電子機器等で活用の見込まれる新規絶縁材料を開発することを目指している。 電気信号の低遅延・低損失の観点から近年、絶縁材料の低誘電特性化/高接着化が進められているが、既存の高分子材料では両特性がトレードオフにある場合が多く、性能限界に直面している。これに対し本研究では、リン・硫黄間に二重結合を有するホスフィンスルフィド(P=S)材料の、1)構成元素間の電気陰性度差が小さく極性が低い、2)金属配位性を有するため高い接着性が期待できる、という性質を活用し、従来の限界を突破した材料を実現する。 我々は以前から、P=S基を有する種々の高分子材料を開発し、特に光学用途への応用を行ってきた。本研究ではそれらの材料群の新たな側面を見出すべく、まず初期検討としてP=S基含有芳香族ポリエーテルを選択し、その誘電率/誘電正接を評価したところ、主鎖構造の対応する市販ポリマー(ポリエーテルスルホン等)に比べて有意に低誘電率/低誘電正接を示すことを見出した。さらに、リン上官能基およびコモノマー種を種々変更し物性との相関を確認したところ、脂肪族基の導入によって誘電特性を一層改良できることも見出した。また接着性の観点については、銅基板を対象とする評価において、未だ定量評価には至っていないものの、従来材料と同等以上の接着性を示唆する結果も得ている。 これらの成果について、既に学会発表を終えており、学術論文についても鋭意準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では初年次において、我々が合成法を既に確立しているP=S基含有芳香族ポリエーテルについて、構造の対応する既存材料と比較して誘電特性上の優位性を明確化し、構造と物性の相関関係を整理した上で繰り返し構造をチューニングしてP=S基含有芳香族ポリエーテル類の中での最適構造を見出すことを目指す予定であった。 これに対して、(1)主鎖構造の対応する市販ポリマー(ポリエーテルスルホン等)に比べて、P=S基含有芳香族ポリエーテルが有意に低誘電率/低誘電正接を示すことを見出した、(2)構造と物性の相関関係を整理して、リン上官能基およびコモノマー種として肪族基を有する構造を活用することで誘電特性が一層改良された材料を得た、加えて、(3)P=S基含有ポリエーテルが銅基板に対して従来材料と同等以上の接着性を発現することを示唆する結果を得た、ことから、2022年度の進捗については、当初の計画通り進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
初年次においては、合成法を既に確立していたP=S基含有芳香族ポリエーテルを主たる対象として迅速な原理検証を優先して研究を遂行したが、主鎖中に含まれる芳香族構造が低誘電特性に対しては必ずしも有利でないことも明らかとなってきた。 そこで、二年次においては、芳香族ポリエーテル以外のP=S基含有高分子の合成法確立とその物性評価を行う。具体的には、スチレン型やアルキレン型の主鎖を持つ高分子を検討する。これらの高分子材料の合成法は古くから知られているものの、それらの典型的な合成条件におけるP=S基の振る舞いについては未だ十分に明らかではなく、場合によっては新規合成法の開拓を含めた合成化学的検討が必要であると考えている。 さらに、初年次においては定性的評価に留まったP=S基含有材料の金属に対する接着性について、定量的評価に取り組むとともに、電子回路の配線等に用いられる金属種(Cu、Ni、Ag等)に対する配位/接着相性を体系的に整理することにも取り組む計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
誘電特性評価に使用する空洞共振器について、既設の治具(10 GHz用)に加えて更なる高周波数域に対応する測定治具(20 GHz用、約50万円)を2022年度中に購入する計画であったが、納期の関係で購入を2023年度に延期したため。
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