令和4年度までに、強すぎない「適度な」電子欠損性を持つキノキサリン(QI)骨格を有する半導体ポリマーPQITにおいて、LUMOの非局在化がLUMO準位の低下に効果的であり、PQITを用いた有機電界効果トランジスタ(OFET)がn型半導体特性を発現することを見出した。 令和5年度は、まず、PQITを用いたOFETの高性能化を試みた。興味深いことに、PQITのクロロベンゼン(CB)溶液を用いて成膜した素子は1.0 cm2/Vsを超える電子移動度を示し、クロロホルム(CF)溶液を用いて成膜した素子(0.1 cm2/Vs)の10倍以上高い値を示すことを見出した。X線回折測定により薄膜構造を評価したところ、CBで成膜したポリマー薄膜はCFで成膜したものよりもπスタック距離が短く、結晶子サイズが大きいことがわかった。すなわち、CB溶液を用いて成膜したOFETは、結晶性の向上に起因して高い電子移動度を示したと考えられる。 一方、PQITは高い結晶性を示すものの、Face-on配向であることがわかった。一般に、OFETでは基板水平方向に電子を輸送するため、Face-on配向よりもEdge-on配向が有利である。従って、QI系ポリマーをEdge-on配向にすることで、主鎖間・主鎖内ともに基板水平方向に電子を輸送でき、さらなる移動度の向上が見込まれる。そこで、配向性の制御を目的として、PTQIに導入するアルキル基を短くしたPTQI-2と、πスペーサを長くしたPTQI-3をそれぞれ合成した。しかしながら、いずれのポリマーも溶解性が大きく低下し、成膜が困難であったため、FET特性は評価できなかった。 以上、研究期間全体を通じて、「強すぎない適度な電子欠損性を持つ骨格の導入によるLUMOの非局在化」という、高性能n型半導体ポリマーの開発に向けた新しい材料設計指針を示すことができた。
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