当初の計画通りn型、p型にキャリア制御されたペロブスカイト型硫化物BaZrS3の多結晶薄膜の作製に取り組んだ。昨年度報告した通り、バルク多結晶体ではn型、p型化に成功していたが、薄膜では硫化物バルク多結晶体をターゲットとしたPLD法や酸化物薄膜の硫化といったいくつかの薄膜作製手法を用いたものの、キャリアの制御には至らなかった。その後研究方針を切り替え、単結晶を育成し、より詳細に基礎物性を調べることを目指したが、材料や部品不足による納期の大幅な遅れによって真空封管システムの立ち上げが遅れ、研究期間内で単結晶育成条件の十分な最適化ができず、単結晶育成にも至らなかった。 一方、本研究課題を遂行する中で得た知見を活かし、第一原理計算に立脚した新しい半導体物質探索や結晶構造制御に関する研究も同時並行で行い、研究計画時の予想を超えた以下の成果を得た。(1)近年新しい強的秩序として注目されるフェロアキシャル秩序を結晶中で実現するための概念を化学結合の観点から提案した。本成果はBaZrS3の電子構造を第一原理計算を用いて化学結合の観点から理解しようと試みる中で得られたものである。(2)高い化学的安定性を有し、半導体や熱電材料として有望な電子状態をもつハロゲン化物の合成に成功した(学術論文の投稿準備中)。 研究期間全体の成果を改めてまとめると、本研究課題の大きな目的の一つであったペロブスカイト硫化物BaZrS3のバルク多結晶体におけるキャリアの極性制御に関しては、昨年度までに概ね達成することができた。そこから単結晶や薄膜に研究を展開するには至らなかったものの、上記(1)(2)のような当初の想定を超えた副次的な研究成果も得られた。
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