単一化合物中に複数のアニオン種を含有する複合アニオン化合物は、既存の酸化物などを凌駕する性能を発揮することから、合成と機能の開拓が進められている。しかし、これまでの反応性ガスや固体反応源を用いる合成手法では3種以上のアニオンを複合化することは困難であった。本研究では、申請者が独自に発見した“金属水酸化物塩ナノ粒子を反応場としたカルボン酸分子と無機水酸化物の協奏反応”を利用して、3種以上のアニオンからなる複合アニオン化合物作製をめざした。この特異な協奏反応はナノ粒子でのみ認められており、そのメカニズム解明を研究の第1段階とした。最も単純な系では金属水酸化物塩相から金属相を生成することがわかっており、その過程を熱分析-質量分析計を用いて解析した。加熱とともにカルボン酸分子と水酸化物が同温度域で熱分解および脱水反応を起こし、金属炭化物を生成する。さらに高温になると炭素が排出されて金属相を生成することが明らかになった。このメカニズムをもとに様々な元素を含むカルボン酸分子を導入した金属水酸化物塩ナノ粒子を前駆体として加熱すると、含まれる元素に応じて炭化物、窒化物、リン化物、酸化物、硫化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物の各無機化合物を選択的に生成できることを見出した。さらにカルボン酸の分子構造は生成する無機物の化学組成を左右し、例えば硫化ニッケルにおいて硫黄含有量が異なる3つの結晶相を作り分けるが可能であった。次に多種の有機分子を内包した金属水酸化物塩ナノ粒子を用いて複合アニオン化合物の合成に取り組んだ。別種のカルボン酸を混合した場合には結晶相が分離した材料が生成した一方で、ひとつのカルボン酸分子に複数の異種元素を含む場合には複数種のアニオンが導入されている結果が得られ、前駆体における元素分布が複合アニオン化合物生成において重要な要素のひとつであることが示唆された。
|