研究課題
対称中心を持たない結晶構造(非対称中心構造)を持つ物質は,強誘電性,圧電性,非線形光学特性やマルチフェロイックなどの特有の物理的物性を発現する可能性を秘めているため,結晶構造における対称中心の有無は新規機能材料の合成の指針として大変重要である。本研究では,孤立電子対を有する三価のアンチモンやビスマスのpブロック元素と配位子が形成する配位多面体の非対称性に着目した物質の合成および誘電性に関する物性の発現・解明を目指す。本年度は、2022年度に水熱合成法で合成に成功したCo3Sb4O6F6のSbをBiで置換したCo3(Sb1-xBix)4O6F6、およびZn3Sb4O6F6について高エネルギー全散乱の温度変化その場測定を行い、相転移前後の局所的な結晶構造の変化から、相転移の発現メカニズムについて調べた。回折実験に加えて、Zn3Sb4O6F6については、X線微細吸収分光法を行い、回折データとの比較から、Sbの非対称な配位構造が相転移に影響を与えていると示唆されている。Ni3Sb4O6F6の中性子回折の温度変化測定、Co3Sb4O6F6の中性子回折の圧力変化測定を行い、磁気相転移および圧力誘起構造相転移をそれぞれ観測した。現在、構造相転移前後のSbが形成する非対称な配位多面体や、SbをBiで置換することによる相転移の変化について、回折データによる長距離的な結晶構造の情報を、散乱および分光データから配位多面体の局所的な構造情報をそれぞれから得ることによって、物性の発現メカニズムを調べている。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、既に合成に成功しているCo3(Sb1-xBix)4O6F6、およびZn3Sb4O6F6について、高エネルギーX線全散乱実験を行い、温度変化のデータを用いた構造PDF解析を進めてきた。データの温度依存性および誘電特性の結果から、誘電率の異常が観測されている温度において、構造相転移が生じることが分かった。Co3(Sb1-xBix)4O6F6系では、Biの置換量増加に伴い、相転移温度が上昇し、室温付近まで相転移温度を上昇させることに成功した。構造解析の結果から、非対称な配位構造を持つSbやBiが構造相転移影響を与えていると示唆されている。上述の結果に加えて、Ni3Sb4O6F6の中性子回折の温度変化測定、およびCo3Sb4O6F6の中性子回折の圧力変化測定を行い、磁気相転移と圧力誘起構造相転移をそれぞれ観測することに成功した。得られた回折データの結晶構造解析を実施している。故に、研究がおおむね順調に進展していると考えている。
順調に研究は進捗しており、研究調書に記載された従来の計画通りこのまま研究を遂行する予定である。
現在執筆中の学術論文の英文校正のために使用する予定であるが、当年度内に間に合わなかったため、翌年度に英文校正を行う。
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Journal of Solid State Chemistry
巻: 334 ページ: 124685
10.1016/j.jssc.2024.124685