本研究では、分岐位置に規定される不均一K48/K63鎖の構造機能相関の抽出に向けて、保護基と光を用いた反応制御による不均一鎖の厳密な構造制御構築法の確立を目指してきた。前年度までに、分岐位置の異なる不均一K48/K63鎖の構築法を確立したため、最終年度では実際に分岐位置と機能の相関抽出を目指し、(1) 酵素による脱ユビキチン化速度の定量解析、(2) ユビキチン認識タンパク質との親和性の系統的評価、(3) プロテアソームによる基質分解誘導能の比較、を試みた。その結果、分岐構造に応じて不均一鎖は、(1) 分岐を持たない均一鎖に比べて脱ユビキチン化酵素による切断が促進されること、(2) シャトル因子との結合が増強されること、(3) プロテアソームによる分解を抑制しうること、を見出した。このことは、従来ユビキチン機能を支配する構造因子として考えられてきた結合様式 (ポリユビキチン鎖においてユビキチン同士が連結しているリシン残基の位置) 以外にも、分岐構造がユビキチン機能の制御子として重要な役割を果たすことを示唆する。また、脱ユビキチン化酵素が特定の分岐構造を選択的に認識・切断していることは、細胞内においても不均一鎖の構造が脱ユビキチン化酵素による編集を受けている可能性を示すものである。以上から本研究は、多機能性な翻訳後修飾としてのポリユビキチンについて、分岐位置という新たな枠組みからその精密な機能制御機構を理解するための足掛かりとなる分子技術、知見を与えるものと考えられる。
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