本研究では、ハスモンヨトウ幼虫が有する分子ナノカーボンの位置選択的な直接官能基化に関与する酵素遺伝子を同定し、同遺伝子にコードされるタンパク質の機能を明らかにすることを目指した。モデル反応には、代表的な分子ナノカーボンであるカーボンナノリング [6]CPP の酸化反応を使用し挑んだ。 昨年度までに、ハスモンヨトウ幼虫の [6]CPP に対する摂食阻害活性を評価し、摂食阻害を示さない最大濃度を見出した。また、見出した最大濃度の人工飼料を用いた生物変換を実施し、代謝物から [6]CPP 誘導体の生産効率を算出した。さらに、ハスモンヨトウ幼虫から RNA を抽出し、RNA-seq により [6]CPP の酸化反応に関与する遺伝子を探索した。また、候補遺伝子はRNAi 法を発育後期のハスモンヨトウ幼虫へ行うことでノックダウン個体を作出し、[6]CPP の生物変換能の欠失を確認することで同定に成功した。 最終年度である今年度は、まず、[5]-[12]CPP を基質に用いた生物変換を実施し、ハスモンヨトウ幼虫の分子ナノカーボンに対する基質特異性を明らかにした。次いで、ドッキングシミュレーションや分子動力学計算、量子化学計算を実施することで [6]CPP と同定した酵素タンパク質との結合構造や安定性、誘導体への反応メカニズムの推定に成功した。今後は、明らかにした標的タンパク質の分子認識能を詳細に明らかにし、新規機能性分子ナノカーボンの創製に挑む。
|