研究課題
本研究は、人工合成した脂質分子を用いたケミカルバイオロジー的手法を用いて、高速で行われる損傷した光化学系II(PSII)の修復の分子基盤を明らかにすることを目的とした。本研究では、PSII修復における膜脂質分子の代謝回転に関わる遺伝子を明らかにするため、チラコイド膜に存在する主要なリン脂質であるホスファチジルグリセロール(PG)を人工的に改変した分子を、PGが合成できないシアノバクテリアの変異株であるpgsA変異株に取り込ませ、PGを化学的に改変した時のPSII修復への影響を解析した。その結果、PGに含まれる脂肪酸のうち、sn-2に主に結合しているパルミチン酸(16:0)が強光下で積極的に、切り出されることを明らかにした(論文投稿準備中)。さらに、生化学的な解析よりシアノバクテリアゲノムにコードされている3つのリパーゼ遺伝子を明らかにし、そのうちの一つが糖脂質を分解するガラクトリパーゼであることを明らかにした(Jimbo and Wada Plant Physiol. 2023)。このガラクトリパーゼの変異株は、損傷したPSIIの反応中心タンパク質であるD1の分解速度が低下したことによって、PSII修復活性が低下していた。また、別のリパーゼである0482について解析を行ったところ、0482は膜脂質とも中性脂質であるトリアシルグリセロール(TAG)とも反応しなかった。近年、シアノバクテリアにはTAGではない、別の中性脂質としてアシルプラストキノール(APQ)が発見されている(Mori-Moriyama et al. BBRC 2023)。そこで、APQを基質として活性を測定したところ、0482はAPQと反応した。0482によるAPQの分解は、強光下でPSII活性が、極限まで低下した際の電子のリザーバーとして働いていることを明らかにした(論文査読中)。本研究において、高速なPSII修復を達成するための、リパーゼ遺伝子をいくつか同定することができた。
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