研究課題/領域番号 |
22K14809
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
神田 健 筑波大学, 医学医療系, 特別研究員(PD) (20932586)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 大腸菌 / 酸耐性 / Gadシステム / 芳香族アミノ酸 / 転写後制御 / sRNA / GcvB / RNase E |
研究実績の概要 |
まず、in silico解析および翻訳レポーター解析により、芳香族アミノ酸の生合成酵素およびトランスポーターをコードする全ての遺伝子に対し、GcvB発現による翻訳への影響の評価を完了した。その結果、昨年度に特定したaroG, pheA, trpC, pheP mRNAに加え、トリプトファン特異的トランスポーターTnaBをコードするmRNAを、新たにGcvBの標的RNAと特定した。さらにRT-qPCRにより、GcvBの過剰発現によってこれら標的mRNAのレベルが減少することを確かめた。一方、主要エンド型RNaseであるRNase Eに、sRNAシャペロンHfqとの相互作用領域を含むC末端ドメインの欠損変異を導入したところ、この現象は見られなくなった。HfqはGcvBの塩基対形成にも主要な役割を果たすことから、GcvBは、上記標的mRNAと塩基対形成することで、翻訳抑制に加え、RNase Eに依存したRNA分解も誘導することが示唆された。 続いて、GcvBによる大腸菌酸耐性機構の発現への影響を評価した。まず、GcvBをプラスミドから恒常的に発現させたところ、ベクターコントロールと比べ、Gad酸耐性システムで働くGadA/Bの発現レベル、および強酸性条件下(pH 2.5)での生存率が増大した。次に、GcvB過剰発現株において、Gad発現制御のシグナル分子であるインドールの濃度を定量したが、予想に反し、有意な差は検出されなかった。また、芳香族アミノ酸代謝系の制御に主に用いるR1領域を欠損させても、Gad酵素レベルは変化しなかった。一方で、R3領域を欠損させたところ、Gad酵素レベルはベクターコントロールと同程度まで減少した。この結果から、GcvBによるGad発現の制御には、R3領域で塩基対形成する標的RNAが関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
芳香族アミノ酸の生合成酵素およびトランスポーターをコードする全ての遺伝子に対し、GcvB発現による翻訳への影響の評価を完了することができた。さらに、計画通り、GcvBによる大腸菌酸耐性の発現への影響を解析し、GcvBがGadシステムの発現を増大させることを確かめた。このメカニズムを解析したところ、予想に反し、インドールシグナルは関与していない可能性が示唆された一方で、Gad酵素の発現上昇に関わる制御領域を特定し、関与する標的RNAを絞り込むことができた。以上より、一部、当初の予想に反する結果が得られたものの、新たな発見につながり、また研究全体としても計画通り進行していることから「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
GcvBがGad酸耐性システムの発現を増大させるメカニズムを解明するため、まず、GcvBのR3領域と塩基対形成する標的RNAの中から、酸応答に関与する遺伝子を探索する。次に、ここで見出された遺伝子に変異を導入し、Gad酵素アッセイ、RT-qPCRによるmRNAレベルの解析、酸耐性試験等により、Gad発現への影響を評価する。さらに、GcvBに、見出された標的RNAとの塩基対形成を破綻させる塩基置換を導入し、Gad発現への影響を解析する。これにより、GcvBが標的RNAを制御することでGad発現を増大させる一連の遺伝子発現制御メカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:実験の効率化に伴う消耗品費の節約のため。 使用計画:高額なRNA抽出用試薬の購入に充てる。
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