研究課題/領域番号 |
22K14819
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研究機関 | 公益財団法人岩手生物工学研究センター |
研究代表者 |
吉田 裕史 公益財団法人岩手生物工学研究センター, 生物資源研究部, 研究員 (70879709)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 発茸抑制 / グルコース / 糖センシング / ウシグソヒトヨタケ / 担子菌 |
研究実績の概要 |
高グルコース下では発茸が抑制され,光等の刺激を与えても子実体形成が起こらない。UV照射または重粒子線照射により突然変異を誘発し,高グルコース下でも発茸が抑制されない突然変異体を探索したところ,一昨年度までにUV180-#38ならびにUV180-#73を取得し,昨年度新たにAr300Gy-#24を取得した。そのうち1株UV180-#73について,全ゲノムシーケンシングならびに後代連鎖解析によって原因遺伝子候補を一つに絞り込み,UV180#73に同遺伝子野生型配列を導入することにより高グルコース下で発茸するという表現型(hgk phenotype)が消失することを実証した。以上をもって同定されたhgk原因遺伝子は単糖輸送体様の膜タンパク質をコードしていたことから,同遺伝子をMonosaccharide transporter-likeに因んでMST1と名付けた。ゲノム中にはMST1のホモログが10個以上存在することから,それらの間で基質や生理的機能の分化が生じている可能性が考えられた。そこで,同菌ならびに他のDikarya菌類におけるMST1ホモログを広く探索してそれらのコードするアミノ酸配列の分子系統解析を実施したところ,他菌において糖センシングに関与することが報告されている因子群と同一のクレードにMST1が位置づけられた。MST1欠損株と野生型株について低グルコース下・高グルコース下でのトランスクリプトーム解析を実施したところ,窒素同化に関連する多数の遺伝子群が高グルコース下でMST1依存的にupregulateされることが見出された一方,糖代謝関連遺伝子群の変動はマイナーであった。以上より,MST1の遺伝子産物が糖代謝の一端を担うよりも寧ろ,糖センサーとして高グルコース下での窒素同化亢進・発茸抑制シグナリングに関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖センサー様因子Mst1を介した糖応答性の窒素同化亢進・発茸抑制シグナリング経路の存在を新たに見出した。これは糖センシングと窒素同化制御系の繋がりを示す目新しい知見である。Mst1を起点として,それと相互作用する因子群を探索することで,同シグナリング経路のさらなる解明が可能であると期待できる。同シグナリング経路は,高グルコース下で栄養生長効率を最大化させることが他生物との競合において有利となることと関連した制御システムであると考えられる。このことは逆に,他生物との競合が無くN源供給も自由に設定できる栽培環境下においては,同システムを欠損させることで生存に不利益をもたらさずに子実体形成(発茸)への資源配分を増大させることが可能であることを想起させる。このように育種目標の設定を考える上でも,本発見は重要な示唆を与えるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ発茸抑制因子の特定には至っていないため,さらなるhgk変異体の解析が必要である。現在,UV180-#73の他にもhgk変異体を取得しており,これらについても遺伝解析・変異解析を進め,原因遺伝子を同定する予定である。発茸不能変異体も既に多数取得しているため,これらの原因遺伝子の同定も進め,発茸抑制経路との関連を検討する。また,Mst1等の既知因子を起点とした生化学的手法による発茸抑制経路因子の探索も並行して進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿に関連した諸経費として年度内の使用がなかったため支出が抑えられたが,この分が次年度の論文投稿等成果発表に際して使用される見込みである。
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