研究実績の概要 |
本研究では、微生物間相互作用による遺伝子発現・代謝状態の変動に着目し、乳酸菌をモデルとした「情報伝達因子の探索」と「相互作用が制御する代謝経路の解析」により、微生物間の情報伝達機構を生存戦略としての視座から解明する。昨年度までに、Pseudomonas属細菌、Xanthomonas属細菌、Dickeya属細菌(以後、Ps, Xc, Diと記載)の培養液上清を添加することで環境サンプル中の微生物叢変動が誘起されることを明らかにした。 本年度は、上記3菌種の培養液が乳酸菌等の生育に及ぼす影響を調査するとともに、選抜株の抗菌物質生産性を試験した。分離源、および微生物分離法は昨年度の実績報告書に記載の通りである。供試乳酸菌候補として、新たに農作物残渣より同様に分離した30株を加えた計455株を用いた。Ps, Xc, Diの代謝物による生育促進・抑制を調査するため、MRS液体培地に1%(v/v)のPY液体培地、または3種の微生物いずれかのPY液体培養液無菌上清を添加したものを調製した。乳酸菌候補株はMRS液体培地で前培養を行ったのち、96穴プレートに分注した上記試験用培地へ1%(v/v)で接種後、30℃、16時間培養後のOD=595nmを測定した。抗菌活性は、OD測定後のPY添加区分培養液を用いたspot-on-lawn法により試験した。 その結果、異種微生物の培養液添加区分とコントロールとの間に有意な生育の差異は確認されなかった。一方、8株の検定菌を用いた活性試験では18株で活性が確認され、うち6株はミカン落果土壌由来・Xc添加区分、4株がイチジク由来・Ps添加区分での分離株であった。前者はグラム陽性細菌へ比較的広範な活性を示した一方、後者はBacillus subtilis特異的な活性が確認されており、抗菌性物質の同定を進めるとともに、異種代謝産物による生産性への影響を解析中である。
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