研究課題
根粒菌と共生窒素固定を行うマメ科植物は、窒素栄養が豊富な土壌にて根粒共生を自ら抑える機構をもつが故に、農業上において望ましい “根粒共生と窒素肥料による窒素栄養の獲得の両立” が困難となっている。本研究では、栄養豊富な土壌環境下でも根粒共生できるマメ科植物の開発を見据え、鍵転写因子群が司る根粒形成遺伝子スイッチング機構を物理化学的な側面から解明することに取り組む。本研究での成果は、植物-微生物共生の研究分野に新規軸を打ち出すとともに、ダイズなどの農業上重要なマメ科植物の中で眠る潜在能力を最大限に引き出すための基盤知見にもなると期待される。初年度となる2022年度においては、根粒形成を促進する転写因子NINとそのホモログであり硝酸に応答するのみならず根粒形成を抑制する転写因子NLPの間においてDNA結合特異性および遺伝子制御の違いを生み出すアミノ酸配列モチーフを同定した。さらに、それら転写因子群のDNA結合特異性および遺伝子制御特異性を逆転させるキメラ転写因子群の作出にも成功した。またAlphaFold2による予測構造より、そのアミノ酸配列モチーフがどのような物理化学的なメカニズムでNINとNLPの異なるDNA結合特異性を生み出すのかを考察し、実際に生化学的解析でその妥当性を示した。さらには、上記の過程でデザインしたキメラ転写因子を用いることで、窒素栄養が豊富な条件下でも根粒を形成できるミヤコグサ(マメ科植物のモデル生物)の創出にも着手し始めている。さらに、構造解析に適したコンストラクトを作成し、その精製法を確立したことで、当該転写因子群と標的DNAの複合体構造を実験的に明らかにするための基盤を構築した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定通り、当該転写因子群がもつ根粒形成遺伝子スイッチング機構(ONとOFF)において鍵となるアミノ酸配列モチーフを同定することができ、さらに立体構造予測と生化学的解析を駆使してその分子構造基盤に迫ることができた。また、当該転写因子群と標的DNAの複合体構造を実験的に明らかにするために、構造解析に適したコンストラクトを作成して、その精製法を確立することができた。さらには、上記の過程でデザインしたキメラ転写因子を用いることで、窒素栄養が豊富な条件下でも根粒を形成できるミヤコグサ(マメ科植物のモデル生物)の創出にも着手し始めている。
マメ科植物の根粒形成遺伝子スイッチング機構を物理化学的な側面から理解し、より精密に改変するためには、転写因子と標的DNAの複合体構造の取得が必要不可欠である。次年度では、X線結晶構造解析およびクライオ電子顕微鏡による単粒子解析を用いて、これまでホモログの構造も解かれていない当該転写因子の立体構造を明らかにし、原子分解能レベルで根粒形成を司る転写制御を理解する。そして、ダイズなどの農業上重要なマメ科植物の中で眠る潜在能力を最大限に引き出すための基盤知見を蓄積させる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
The Plant Cell
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10.1093/plcell/koac046
Nature Plants
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10.1038/s41477-022-01289-6
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20220212000000.pdf
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20221228140000.pdf