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2023 年度 実施状況報告書

糸状菌の菌体外酸化還元タンパク質を基盤とする直接電子移動反応系

研究課題

研究課題/領域番号 22K14826
研究機関国立研究開発法人産業技術総合研究所

研究代表者

武田 康太  国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20781123)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード酸化還元タンパク質 / 酵素電極反応 / 直接電子移動 / ピロロキノリンキノン / ヘム / プロトン共役電子移動 / 自己組織化膜
研究実績の概要

酵素による触媒反応と電極での電気化学反応を共役させた反応を酵素電極反応といい、バイオセンサーやバイオ燃料電池、物質生産へと応用できる。酵素と電極間で直接的な電子の授受が起こる直接電子移動(DET)反応は、非常にシンプルな反応系となるのが利点である。DETができるかどうかは酵素の立体構造に大きく依存しており、酸化還元酵素全体のごく一部に限られているのが課題となっている。本研究では、優れたDET反応を示す糸状菌由来のピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビン(FAD)、ヘムなどを活性中心に有する酸化還元酵素に注目し、これらの酸化還元タンパク質の性質を明らかとし、それを利用した直接電子移動反応系の設計手法と酵素電極の開発を目的としている。
2023年度は、担子菌由来ピラノース脱水素酵素(CcPDH)のDETとドメイン間電子移動反応に関する成果が得られた。本酵素はPQQドメイン(触媒部位)とシトクロムドメイン(電子伝達部位)を有するタンパク質で、両ドメインとも電極への直接電子移動が可能である。電極上にアルキル鎖長の異なる自己組織化単分子膜を修飾することで酵素と電極間の距離を制御した。その結果、活性中心のPQQと電極間の距離が約0.15 nmを超えると、PQQドメインからのDETは起こらなくなり、シトクロムドメインを介したDET反応のみが進行することを見出した。ストップトフロー法を用いて、CcPDHの触媒反応の前定常状態を解析した。PQQの還元速度よりヘムの還元速度が遅く、ドメイン間電子移動が律速であること明らかとなった。さらに、糸状菌由来のシトクロムドメインは、異種であるバクテリア由来グルコース脱水素酵素の電子受容体となることが示された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

DET型酵素電極は、酸化還元酵素と電極基板のみで構成される非常にシンプルな系であることから電気化学デバイスへの応用が期待される。これまでにDETが報告されている酵素は数十種類程度と限られており、触媒部位に加えて分子内メディエーターとして働く電子伝達部位(酸化還元中心にヘム、タイプI銅、鉄硫黄クラスター等を有する)をもつマルチドメイン酵素がほとんどである。
2023年度は、シトクロムドメインを有するピラノース脱水素酵素の電子移動反応を解析し、酵素-電極間の距離に応じて電子伝達経路が変化することを見出した。この反応系を利用して、ドメイン間電子移動を介したDET型酵素電極反応を評価することができるようになった。本成果は、糸状菌シトクロムの構造的・機能的特性、ならびに酵素のターンオーバーにより達成される触媒電流に寄与するドメイン間電子移動(触媒中心からヘム)とDET(ヘムから電極)について新たな知見を与えるものであり、シトクロム融合酵素のタンパク質設計戦略にも役立つものである。また、外的要因(化合物、pH、温度、溶媒など)によってドメイン間電子移動を阻害したり促進したりすることで、ドメイン間電子移動の反応性に基づくような新規なタイプのバイオセンサーを開発が期待できる。
ストップトフロー法から、前定常状態での糸状菌由来のピラノース脱水素酵素のドメイン間電子移動反応を解析し、定常状態におけるpH依存的な反応速度の変化は、本研究で先に明らかとした酵素内のPQQとヘムの酸化還元電位差に起因することが示唆された。
切り離したシトクロムドメインが異種由来の脱水素酵素のメディエーターとして働くすることがわかった。これは来年度のシトクロムドメインをプラットフォームとするDET型酵素電極の開発につながる成果である。以上より、本年度の研究計画目標をほぼ達成できた。

今後の研究の推進方策

今年度までにピラノース脱水素酵素の触媒ドメインのDET法による解析手法を確立できたので、PQQの酸化還元状態、配位する金属種の効果などを調べ、触媒反応機構の知見を得る。
DETを可能にするタンパク質改変技術の開発を目指し、シトクロムドメインの有用性について詳細に研究する。ピラノース脱水素酵素の全長酵素を用いた酵素電極で、シトクロムドメインの有無に関して、電極の3次元的構造や、電極表面への酵素の吸着配向との関係、至適pHについて調べる。
組換え発現系によって調製した糸状菌由来シトクロムドメイン単体が、DETが困難な酵素の一つであるバクテリア由来のPQQ依存性グルコース酵素の電子受容体となり得たことから、シトクロムドメインとの複合的な状態での電極固定化を検討し、DET型酵素電極の開発を行う。

次年度使用額が生じた理由

生化学、電気化学関連の消耗品に関して、いくつか使い切らなかった物があるため、今年度購入予定であった消耗品の購入を先送りにした。そのため次年度使用額が生じた。2024年度に必要な消耗品費用として充てる予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)

  • [国際共同研究] BOKU University/Natural Resources and Life Sciences(オーストリア)

    • 国名
      オーストリア
    • 外国機関名
      BOKU University/Natural Resources and Life Sciences
  • [国際共同研究] University of Essex/School of Life Sciences(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      University of Essex/School of Life Sciences
  • [雑誌論文] Direct Bioelectrocatalysis via Interdomain Electron Transfer of Fungal Pyrroloquinoline Quinone-dependent Pyranose Dehydrogenase Depending on the Alkyl Chain Lengths of Self-assembled Monolayers2024

    • 著者名/発表者名
      Kota Takeda, Tatsuki Minami, Makoto Yoshida, Kiyohiko Igarashi, Nobuhumi Nakamura
    • 雑誌名

      Electrochemistry

      巻: 92 ページ: 022011

    • DOI

      10.5796/electrochemistry.23-68127

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 担子菌由来ピラノース脱水素酵素の酸化還元挙動の電気化学的解析2024

    • 著者名/発表者名
      武田 康太, 五十嵐 圭日子, 中村 暢文
    • 学会等名
      生物無機化学シンポジウム2024
  • [学会発表] Lanthanide-dependent PQQ-containing quinoprotein as a catalyst for glucaric acid production2023

    • 著者名/発表者名
      Kouta Takeda, Kiyohiko Igarashi, Nobuhumi Nakamura
    • 学会等名
      20th International Conference on Biological Inorganic Chemistry
    • 国際学会
  • [学会発表] An L-fucose biosensor based on direct electron transfer of the PQQ-domain of pyranose dehydrogenase2023

    • 著者名/発表者名
      Kouta Takeda, Kiyohiko Igarashi, Nobuhumi Nakamura
    • 学会等名
      16th International Symposium on Applied Bioinorganic Chemistry
    • 国際学会
  • [学会発表] きのこ由来のピラノース脱水素酵素のドメイン間電子移動2023

    • 著者名/発表者名
      Kouta Takeda, Kiyohiko Igarashi, Nobuhumi Nakamura
    • 学会等名
      第33回 日本MRS年次大会
    • 招待講演
  • [学会発表] シトクロムドメインを持った脱水素酵素のヘム近傍部位への変異導入による電子移動反応に影響する因子の解明2023

    • 著者名/発表者名
      三村周平, 川尻茉美花, 武田康太, 五十嵐圭日子, 中村暢文
    • 学会等名
      2023電気化学秋季大会
  • [学会発表] シトクロムドメインを持った脱水素酵素のヘム近傍部位への変異導入がヘムの酸化還元電位に及ぼす影響2023

    • 著者名/発表者名
      三村周平, 川尻茉美花, 武田康太, 五十嵐圭日子, 中村暢文
    • 学会等名
      第49回生体分子科学討論会

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公開日: 2024-12-25  

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