研究課題/領域番号 |
22K14831
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宋和 慶盛 京都大学, 農学研究科, 助教 (90904095)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 直接電子移動型酵素 / フルクトース脱水素酵素 / バイオセンサ / クライオ電子顕微鏡 / 生物電気化学 / 構造生物学 / 酵素工学 / バイオ電池 |
研究実績の概要 |
直接電子移動型酵素電極反応(=DET型反応)は,酵素と電極のみで構成される理想的な反応系であり,酸化還元酵素の基礎研究から環境に優しい次世代型デバイスに向けた応用研究に至るまで,幅広い分野で注目を集めている.しかし,本反応を実現できる酵素の報告例は少なく,反応機構も解明されていない.そこで本研究では,「生物電気化学と立体構造解析および予測技術を融合させた手法によるDET型反応機構の解明」を目的とする. モデル酵素であるフルクトース脱水素酵素(FDH)の立体構造をクライオ電子顕微鏡観察法を利用し,3.6Åの分解能(PDB 7W2J)で解明した(ChemRxivにPreprint出版済).さらに,酸化還元状態を制御した条件で,2.5Å(還元型)と2.7Å(酸化型)の分解能まで向上させた.本成果は,キノヘモあるいはフラボヘモタンパク質で報告されているDET型酵素において世界で初めての立体構造解析例である. 次に,解明した立体構造に基づきFDHの基質認識機構を考察した.酵素表面を観察し,触媒活性部位であるFADに繋がる明瞭なキャビティーを確認した.ドッキングシミュレーションにより,基質認識に必要なアミノ酸残基を3つ特定できた.また,解明した立体構造を活用し生物電気化学的考察を進めた.酵素内に含まれる6個コファクターの酸化還元電位を利用し,マーカスの理論式によって酵素内電子移動速度定数を評価した.本結果より,触媒活性サブユニット内に存在する[4Fe3S]クラスターから電子伝達サブユニットに存在するヘム3c間の電子移動が律速段階であることが示唆された.また,電極との電子移動を担う電極反応部位を電気化学的に考察した.立体構造から酵素表面の静電ポテンシャルを計算し,正あるいは負に帯電させた電極を用いることで,電子伝達サブユニット内のヘム2cが電極反応部位であることを強く示唆する結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画は3つの研究計画から構成されている. <計画1:DET型反応経路の特定と構造予測技術の検証>,<計画2:可溶性FDHの作製と生物電気化学的検討>,<計画3:電極反応部位のヘムcに着目した変異体作製とDET型反応機構の解明> 当初,計画1は二年間で目標を達成する予定であったが,研究実績に記載の通り,立体構造解析に基づいた検討により,1年前倒しでDET型反応経路を特定することに成功した.また,計画3に関しても,DET型反応機構の解明のカギとなるアミノ酸残基を特定することができている.すでに当該アミノ酸残基に着目した変異体の作製は完了しており,3年度目に計画していた予定を1年前倒しにして電気化学評価を進めている.なお,計画2に関しては,計画通りに進行している.
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今後の研究の推進方策 |
計画2に関しては,予定通りに変異体の作製及び電気化学評価を実施する.また,立体構造解析も行い,構造生物学と生物電気化学を融合させた検討を進める. 計画3に関しては,カギとなる3つのアミノ酸残基に変異導入を施した変異体を作製し,電気化学評価を実施する.これらの研究結果に関しては,JACS誌への投稿を予定しており,積極的な研究成果発信を行う予定である. また,本研究における付随的成果として,FDHの基質認識機構が解明することができた.本成果は,基質認識機構を制御することで新規酵素を創出する発想につながるものである.より発展的な酵素利用に向けた検討も推進していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた実験が効率よく進行したため,計画を下回る使用額となった. そこで,来年度は,研究計画を加速度的に遂行するために,必要物品の購入を予定している.また,論文投稿や国内外の学会にも参加し,世界に向けた研究成果発信を計画しており,当該活動として旅費などを使用する予定である.
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