研究課題/領域番号 |
22K14833
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
工藤 雄大 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (60824662)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | テトロドトキシン / イモリ / 生合成 / 構造解析 / 質量分析 / メタゲノム |
研究実績の概要 |
テトロドトキシン (TTX) は、フグやイモリなど多様な生物が持つ代表的な自然毒である。陸上におけるTTXの生産者は不明瞭であり、生合成経路は長年の謎となっている。本研究では有毒イモリからTTXの生合成に関連する新たな化合物を探索し、その化学構造を解析することで生合成経路の推定を試みる。併せて毒の生産者が含まれると予想される環境微生物の遺伝子解析(メタゲノム解析)を行い、陸上TTXの生合成経路の解明を目指す。 先行研究で得た生合成経路の知見に基づき、質量分析器(MS)を用いてTTXに関連する新規化合物を探索した。国内外の各種TTX含有イモリから種々の方法で毒成分を抽出し、LCMS分析に供すことで、関連化合物と思われる未知ピークを複数検出できた。単離した未知化合物の化学構造を核磁気共鳴装置(NMR)を用いて解析中である。また属や生息地の異なる有毒イモリのTTXおよびTTX関連化合物を分析し、この成分解析から生合成経路の考察を深めている。一方、質量分析器を用いた新規化学物の探索方法を放線菌に応用することで、抗マラリア活性を示すリン酸トリエステル化合物サリニポスチンの新規類縁体を複数得た。得られた化合物のモノアシルグリセロールリパーゼの阻害活性を評価し、強い活性(ナノモーラーオーダーの半数阻害濃度(IC50))を示すことを明らかにした。本成果を関連学会で発表し、論文として公表した。 TTX含有イモリの生息地から得た環境メタゲノムの解析を行った。先行研究で環境メタゲノムをインサートとするFosmidライブラリーを得ていた。本ライブラリーの塩基配列を各種バイオインフォマティクス解析に供し、TTXの生合成遺伝子および生合成遺伝子クラスターの候補を探索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で予想してきた陸上TTXの生合成経路に基づき、質量分析器(MS)を用いてTTXの生合成に関連する新規化合物を探索した。国内外の各種TTX含有イモリから、極性が高い成分、極性が比較的低い成分をそれぞれ抽出した。逆相カラムおよびHILICカラムを用いたLCMS分析に供すことで、関連化合物と思われる未知ピークを複数検出することに成功した。微量ながら単離できた未知成分の化学構造を核磁気共鳴装置(NMR)で解析中である。また、他の未知化合物を各種カラムクロマトグラフィーにて精製中である。属や生息地の異なる各種有毒イモリや海洋有毒生物におけるTTX関連化合物をLCMSで分析し、生合成経路の知見を集めた。化合物探索および生合成遺伝子の探索に活かしていく。一方、質量分析器を用いた新規化学物の探索方法を放線菌に適用することで、海洋放線菌より抗マラリア活性を示すリン酸トリエステル化合物サリニポスチンの新規類縁体を得た。得られた化合物のモノアシルグリセロールリパーゼの阻害活性を評価し、ナノモーラーオーダーの半数阻害濃度を示すことを明らかにした。 TTX含有イモリの生息地から得た環境メタゲノムの解析を行った。研究代表者の先行研究で環境メタゲノムをインサートとするFosmidライブラリーを構築していた。本ライブラリーの塩基配列を各バイオインフォマティクス解析に供し、TTXの生合成遺伝子ならびに生合成遺伝子クラスターの候補を探索している。 質量分析器を用いた探索を駆使することで、天然から新たなTTX関連化合物と思われる成分を複数見出した。また、当初の予定ではないが、MSによる探索法を適用することで、強力な酵素阻害能を持ち、天然では極めて稀なリン酸トリエステル化合物を有する化合物を発見できた。本成果は論文として公表し、論文賞を受賞した。これより、研究はおおむね順調に進展したと捉えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究を継続することで、TTX生合成経路の解明を目指す。 各種有毒イモリを対象として、新たなテトロドトキシン(TTX)関連化合物の同定を試みる。これまで質量分析器(MS)を用いた探索で検出された候補化合物の単離と化学構造の解析を行う。いずれの候補化合物もイモリ内に微量にしか存在しないことが解析の障害になっている。効率の良い抽出方法と精製方法を再検討しながら、より高感度なNMR装置を用いた解析により構造決定の達成を目指す。また、DFT計算によるケミカルシフトの予測、およびDP4解析など計算科学の手法による推定構造の裏付けを行う。決定した化学構造が推定生合成経路にどのように位置づけられるか考察し、陸上TTXの生合成経路のさらなる推定を行う。また、放線菌を対象とした化合物探索も継続する。培養方法の工夫と質量分析器による探索を組み合わせることで、新たな天然化合物が検出できているため、これらの化学構造の決定を目指す。 推定生合成経路に基づき、有毒イモリの環境メタゲノムから、生合成遺伝子(クラスター)を探索する。配列ベースの解析(BLAST)と立体構造の予測(Alphafold2)を行い、生合成への関与が考えられる候補遺伝子を絞り込む。候補遺伝子をライブラリーを基にPCRで増幅、あるいは人工遺伝子合成(依頼)した後、ベクターに組み込んで大腸菌等で推定生合成酵素を異種発現させる。研究代表者が単離あるいは合成した予想基質化合物を用いてin vitroの酵素反応を行い、推定生合成酵素の機能を解析する。また、有毒イモリ生息地から、新たなTTX含有生物ならびにTTX生産生物の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に予定していた環境DNAと有毒イモリなどの生物の野外サンプリングの回数を減らした。2023年度に改めて行うため、サンプリングにかかる費用、およびDNA抽出や毒成分の抽出・分析等にかかる費用が必要となる。また、上記に伴って、次世代シーケンサーによる塩基配列解析を2023年度に延期したため、その解析依頼料が必要となる。設備備品の購入を一部2023年度に持ち越した。
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