研究実績の概要 |
マラリア原虫リンゴ酸-キノン酸化還元酵素(PfMQO)は、リンゴ酸からオキサロ酢酸への酸化とキノンからキノールへの還元を触媒する。本酵素は、マラリア原虫ミトコンドリアのTCA回路と電子伝達系の構成因子として機能すると考えられており、抗マラリア剤の有望な標的分子として注目されている。前年度は、PfMQOが酵母ミトコンドリアで発現し、酵母のリンゴ酸脱水素酵素(yMDH1)の機能を代替することを示した。また、本酵素のリンゴ酸反応部位がマトリックス側に位置することを同定し、PfMQOがTCA回路の構成因子として機能するミトコンドリアタンパク質であることを明らかにした。 2023年度は、PfMQOの立体構造と触媒機構の理解を目指した。無水酢酸を利用したprotein footprintingでは、低分子が接触可能な露出した求核性アミノ酸残基(Lys, Ser, Thr, Tyr, Cys, His)を網羅的にアセチル化修飾することができる。本手法をPfMQOに適用し、基質等が接触可能なアミノ酸残基をマッピングした。また、AI(AlphaFold2)による構造予測モデルを合理的に組み合わせ、補因子FADが結合し得るcavityを見出した。 得られた構造情報に基づく点変異解析により、触媒部位(H123、H343、Y330)を同定した。また、その近傍のK135の置換では、リンゴ酸の拮抗阻害剤ferulenolに対する感受性が向上した。つまり、K135は阻害剤結合部位と重なって、かつリンゴ酸結合部位と隣接して位置すると考えられ、同定した触媒部位とも矛盾しない。構造的/機能的に相同なタンパク質の構造と触媒機構を参照したところ、上述のcavityにおけるFADの結合が強く示唆され、その詳細な結合様式を推定することができた。さらに、PfMQOにおけるリンゴ酸の酸化反応機構を提案することに成功した。
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