研究課題/領域番号 |
22K14844
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
小川 健二郎 宮崎大学, 農学部, 准教授 (70840700)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ポリフェノール重合体 / 涙液分泌 / シェーグレン症候群 / ドライアイ / 脳腸軸 / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
2年目の研究目的として、ポリフェノール重合体であるプロアントシアニジン(PAC)による涙液分泌に及ぼす影響を評価するとともに、そのメカニズムとして脳腸軸を介した作用である可能性を検討した。実験方法は前年と同じく、ドライアイ発症マウスであるnon-obesity diabetes (NOD) マウスを用いて行った。これまでに涙液分泌増加作用の認められた食品素材であるブルーベリー葉には、異なる重合度のPACが含まれていることから、本年度はブルーベリー葉より低重合度PACおよび高重合度PACを含有する画分を新たに調製し、元のブルーベリー葉エキスおよびPAC構成ポリフェノールであるカテキン、そして比較対象(control)を加えた5種類の餌、5群にマウスを分け、それぞれの混餌食を継続摂取させた後に涙液分泌に及ぼす影響を調べた。結果として、比較対象および単量体ポリフェノールであるカテキン群では涙液分泌の増加が認められず、ブルーベリー葉エキス、さらには低重合度および高重合度PAC画分含有混餌食マウス群で涙液分泌の増加が認められたことから、ポリフェノール重合体が外分泌機能を高めることを明らかとした。次いでメカニズム解明を目的とし、腸内細菌叢の解析、糞中短鎖脂肪酸の分析を行うとともに、脳腸軸の伝達や涙液分泌に関わる神経伝達物質について腸、脳、血液の分析を行った。結果として、腸内細菌叢においてはPAC高含有画分にて、短鎖脂肪酸産生菌の増加および炎症性毒素産生菌の減少が認められた。モノアミン、アミノ酸の分析においては、各群間における有意な変動は認められなかった。以上、本年度の研究成果から、重合体ポリフェノールが腸組織に影響を与え、しかし血液を介した涙液分泌への影響の可能性は低く、腸から迷走神経を介して涙腺の分泌機能に影響した可能性が考えられたため、次年度は迷走神経の関与性を調べていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、NODマウスを用いた研究にてポリフェノール高重合体による涙液分泌増加作用が認められた一方で、ポリフェノール単量体にその作用が無いことを見出し、涙液分泌におけるポリフェノール・パラドックスをより明確にした。さらには、腸内細菌叢の解析において、ポリフェノール高重合体の継続摂取が腸組織に何らかの影響を与えている可能性が示された。加えて、腸組織で産生される神経伝達物質について、血中を介して涙腺の外分泌機能に影響する物質を解析した結果、それらの変動は認められず、腸で産生された物質が血液を介して脳や涙腺にはたらきかけ涙液分泌を増加させた可能性は低いことが示唆された。従って、本研究計画の証明目的である、迷走神経を介した脳腸軸(涙腺)の反応経路によるポリフェノール重合体のドライアイ改善作用が存在する可能性が高まったと考えている。最終年度は、ポリフェノール高重合体の涙液分泌改善作用が、実際に迷走神経の機能を排除した際に消失することを確認し、涙液分泌における脳腸軸を介したポリフェノール・パラドックスの作用機序解明に繋がるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
NODマウスにおいて、迷走神経がはたらかない条件において既に涙液分泌改善作用の認められたポリフェノール高重合体混餌食を継続的に摂取させ、涙液分泌機能に及ぼす迷走神経の関与性を調べていく。また、腸内細菌叢の変動を再度詳細に調べると共に、腸組織における炎症や腸上皮に存在するタンパク質、遺伝子に対する影響について調べていく。全体として、食品由来の高重合度ポリフェノールの摂取が、腸組織の改善および迷走神経を介した脳腸(涙腺)軸の経路により、涙液分泌改善に繋がるとの新たな反応経路を実証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はほぼ計画通りに試験を実施し、次年度使用額については研究資材購入には足りない金額(1,633円)が残る結果となった。そのため、次年度の研究における試験試薬や機器購入の費用に充てる予定である。
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