研究実績の概要 |
澱粉は,老化による物理的な構造変化に伴い物性が変化する。そのため,老化による物性変化と構造変化の関係を把握し制御することが求められている。本研究では,澱粉の種類・濃度・保存期間によって異なる物性を定量的に把握し,それらの物性に起因する物理的な構造の構築状態を明らかにすることを目的とした。令和4年度では,示差走査熱量計(DSC)を用いて,澱粉-水系における氷結晶および老化澱粉の融解挙動を測定した。 試料は小麦澱粉,馬鈴薯澱粉,トウモロコシ澱粉(ウルチ種およびモチ種)を用い,澱粉濃度は15,30,50%,保存温度は4℃とした。DSCでは,保存期間に応じて以下の温度プログラムで測定した。(i)保存0日目:①-30℃~100℃の昇温測定→②100℃~-30℃の冷却測定→③-30℃~100℃の昇温測定(①は未糊化澱粉-水系中の氷結晶の融解および澱粉の糊化,③は糊化澱粉-水系中の氷結晶の融解を測定)(ii)保存1,3,7日目:-30℃~100℃の昇温測定(老化澱粉-水系中の氷結晶および老化澱粉の融解を測定) いずれの条件においても,保存7日目までに澱粉の老化が確認された。未糊化澱粉-水系中の氷結晶の融解では,0℃付近にピークが出現し,糊化澱粉-水系中では,0℃付近のピークに加え,0℃よりも低温側にピークが認められた。0℃付近のピークは自由水,低温側のピークは束縛水の融解によるものと考えられた。氷結晶の融解エンタルピーは,澱粉15,30%では未糊化澱粉-水系中,糊化澱粉-水系中,老化澱粉-水系中のいずれも違いはなかった。一方,澱粉50%では,未糊化澱粉,糊化澱粉,老化澱粉の順で融解エンタルピーが小さくなる傾向にあり,不凍水の増加によるものと考えられた。このことから,糊化澱粉および老化澱粉ゲルのネットワークに取り込まれた水の存在状態は,澱粉15,30%と50%で異なることが示唆された。
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