研究課題
2022年度は、まずチャハマキのオスを殺す共生細菌Spiroplasmaのゲノム解析を実施した。ショウジョウバエのオス殺しSpiroplasma(Spiroplasma poulsonii)は、Spaid遺伝子をもとにオスを殺すことが分かっていたが、チャハマキに感染するSpiroplasma (Spiroplasma ixodetis)はSpaidを持っていないことがわかった。このことは、Spiroplasma属細菌が、異なるオス殺しメカニズムを進化の過程で獲得してきたことを示唆している。さらに、S. ixodetisの感染宿主内での局在や、水平感染能力もS. poulsoniiと大きく異なることが判明しただけでなく、チャハマキのオスの発生に及ぼす影響も明らかになった。チャハマキに感染する3種類のオス殺し微生物との影響比較から、これらの微生物は共通の遺伝子を持たず、異なるメカニズムをもとにオスを殺すことが分かり、同一宿主でオス殺しを達成するプロセスが複数あることを初めて示すことができた。二つ目に、Wolbachiaをチャハマキ卵に移植する技術およびチャハマキ卵を用いた遺伝子機能解析系を構築することができた。興味深いことに、移植世代のチャハマキではWolbachiaが高密度で感染していたものの、次世代にWolbachiaが伝搬しないケースが数多く観察された。昆虫による共生細菌の卵移行阻害である可能性がある。これについては次年度以降も解析を続ける予定である。なお、2022年度に得られた成果は、研究論文として発表するとともに、学会でも発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
初年度はオス殺しSpiroplasmaのゲノムを解析できた。チャハマキに感染するオス殺しWolbachiaやオス殺しウイルスとは共通の遺伝子を持たないことから、独自のメカニズムでオスを殺すことが示唆された。これらの成果は、2本の論文として報告できたため、上記の判断をした。
2023年度は、前年度に決定したオス殺しSpiroplasmaのゲノム情報をもとに、病原性関連遺伝子がどのように宿主昆虫であるチャハマキに影響を及ぼすのかを、遺伝子機能解析をもとに調査する。チャハマキのオスを殺すWolbachiaとSpiroplasmaがそれぞれ標的とする宿主の遺伝子カスケードや、それぞれがオス殺しを誘導できる宿主範囲、またWolbachiaの感染パターンが雌雄間で異なるメカニズムを、種間移植や細胞を用いた生物検定試験および遺伝子発現調査をふまえ明らかにする。
コロナウイルスに関連して、当初想定していた旅費が一部余ったため、次年度に繰り越した。2023年度は前年度から繰り越した40,930円を加えた予算をもとに、Spiroplasmaの遺伝子機能解析やトランスフェクションアッセイ、遺伝子間相互作用解析、および論文のオープンアクセスに活用する予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件)
Frontiers in Microbiology
巻: - ページ: -
10.3389/fmicb.2022.1075199
Heredity
巻: - ページ: 1-8
10.1038/s41437-022-00574-6
Journal of Visualized Experiments
10.3791/63737
bioRxiv
10.1101/2022.06.12.495854
10.1101/2022.04.29.490121