昆虫では,細胞内共生微生物がオス宿主を特異的に死亡させる“オス殺し”が多数報告されているが,オス殺しのほとんどは細菌によるものでウイルスによる事例はわずかであり,ウイルス性オス殺しの分子機構はほとんど分かっていない.ハスモンヨトウから見つかったオス殺しウイルス(SlMKV)のゲノム解析を行った結果,ゲノム上には僅か7つの遺伝子しかコードされていないことが明らかになった.そこで本研究では,ウイルス遺伝子を導入した組換えカイコを利用した機能解析,およびReMOT法を参考にした卵移行性組換えウイルスタンパク質を利用した機能解析によりオス殺しを引き起こすウイルス遺伝子の特定を試みた. これまでに作出した各ウイルス遺伝子を導入した遺伝子組換えカイコについて,それぞれのウイルス遺伝子を強制発現させたところ,いずれの遺伝子を発現させてもオス殺しは再現されなかった.一方,卵移行性のウイルス組換えタンパク質については,これまでに発現精製してきた3つ遺伝子に由来する組換えウイルスタンパク質を、宿主であるハスモンヨトウのメス成虫にそれぞれ注射したところ,これら3つのタンパク質は次世代の胚に導入されるものの,いずれのタンパク質を導入してもオス殺しは再現されなかった. 以上の結果から,本研究ではオス殺しの原因遺伝子の特定には至らなかったが,今後オス殺しの原因遺伝子を特定するには,以下のような可能性を考慮して解析を進める必要があるだろう.1)SlMKVの遺伝子は本来の宿主ではないカイコに対してオス殺しを起こさない.2)卵移行性組換えタンパク質として精製できなかった残り4つの遺伝子のいずれかがオス殺し遺伝子である.3)単一の遺伝子ではオス殺しを起こさない(複数の遺伝子が機能してオス殺しを起こす).4)タンパク質を介さずウイルスRNAそのものがオス殺しを引き起こす.
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