研究課題
本研究は世界中で甚大な被害をもたらしている植物寄生線虫であるネコブセンチュウに着目し、エフェクターとよばれる病原性タンパク質が植物の免疫を抑制するメカニズムの理解を目指している。ゲノム・トランスクリプトーム解析に基づいて絞り込んだ300個以上のエフェクター候補遺伝子から、植物の免疫反応を強力に抑制するエフェクター候補(oki53)を選抜して、分子レベルでの機能解析を進めた。oki53は病原体由来の小分子であるMAMPs (microbe-associated molecular patterns) で誘導される植物の免疫反応を強力に抑制した。oki53を植物で発現させたところ、MAMPの受容に必要な細胞膜上の免疫センサータンパク質の蓄積が阻害されることがわかった。次に、シロイヌナズナ(アブラナ科)とベンサミアーナタバコ(ナス科)のcDNAライブラリを用いて酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行なうことで、oki53の標的タンパク質を探索した。その結果、シロイヌナズナとベンサミアーナタバコの両ライブラリにおいて、RNA結合タンパク質Aが標的タンパク質として同定された。興味深いことに、先行研究からRNA結合タンパク質Aは遺伝子の翻訳抑制に関与することが示唆されている。さらにoki53とRNA結合タンパク質Aを植物体内で発現させ、共局在解析、及び共免疫沈降法による解析を行なったところ、両者が植物体内で相互作用していることを支持する結果が得られた。また、RNA結合タンパク質Aの免疫反応における役割を理解するため、Aの遺伝子に変異が挿入されたシロイヌナズナを用いて、表現型解析を行なった。変異株ではMAMPの処理時により強く免疫反応が誘導され、さらに病原性細菌に対する抵抗性も高くなっていることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
植物の免疫反応を強力に抑制するエフェクター候補(oki53)について、標的因子(RNA結合タンパク質A)を同定すると共に、免疫センサータンパク質の蓄積阻害という興味深い機能を明らかにすることができた。さらに、標的因子の変異株では免疫反応が亢進していたことから、RNA結合タンパク質Aは免疫を負に制御する因子であることが示唆された。このように、エフェクターと植物の免疫関連因子の両面において、新たな免疫制御機構を紐解く糸口となる現象を発見できた。以上より、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
本年度の成果より、oki53は免疫反応に関与するRNA結合タンパク質Aを標的とし、何らかの形で細胞膜上の免疫センサータンパク質の蓄積を阻害していることが示唆された。次年度は、RNA結合タンパク質Aの免疫反応における機能、とりわけ免疫センサータンパク質の翻訳制御機構への関与について、解析を進めていきたい。
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