研究実績の概要 |
リグニン発色団同士の距離を制御する手法として、超(亜)臨界溶媒処理等の熱化学処理によるバイオマスの加溶媒分解に着目した。処理過程でリグニンの結合開裂が生じると同時に、リグニン分子内に溶媒由来の構造が導入され、分子の溶媒への親和性を高めることで、高い脱リグニンが達成される。つまり加溶媒分解を活用し、立体化学的に発色団同士の距離を引き離し、さらに導入する溶媒構造の違いにより発色団間距離、つまり発光特性を制御できると考えた。そこで、本研究の目的は、熱化学処理による加溶媒分解をリグニン抽出法として用い、リグニン分子内への化学構造の導入による発色団間距離の制御、すなわち高濃度条件下での発光特性の制御を可能にすることである。 本年度は、溶媒をフェノールに限定し、フェノール構造の導入形態について、処理温度や処理時間の影響も含めて議論した上で、リグニン構造が発光特性に及ぼす影響について研究を進めた。スギ(Cryptomeria japonoca)辺材及びブナ(Fagus crenata)辺材から調製した脱脂木粉を用い、フェノールと一緒にインコネル-625製のバッチ反応管に封入し、塩浴で処理を行った。得られた可溶部から溶媒であるフェノールを除去するために、貧溶媒を用いた滴下法でリグニン由来物を単離した。得られたリグニン由来物をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、フォトルミネッセンススペクトルを測定した結果、いずれも明瞭な蛍光が得られた。なお、フェノール単体ではほとんど蛍光は認められず、この傾向がリグニンに起因することが示唆された。また、反応時間(230℃/10,30,60分)の違いでは発光特性の違いが認められなかった一方、反応温度(230,250,270℃/30分)や樹種では明瞭な違いが認められた。現在フェノール導入量と分子量が発光特性に及ぼす影響の観点から研究を進めている。
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