研究課題/領域番号 |
22K14933
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樋口 貴俊 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員 (80914019)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ニホンウナギ / 産卵回遊行動 / 日周鉛直移動 / 低水温 / ポップアップタグ |
研究実績の概要 |
西部北太平洋に分布するニホンウナギの産卵回遊における航海機構を明らかにするため、本年度は、本種の日周鉛直移動に及ぼす水温の影響を検討した。過去に行われた本種の産卵回遊行動の研究(Higuchi et al. 2018, 2021)によって、彼らの日周鉛直移動の内、夜間は月の光、昼間は一定の水温(5℃)によって、それぞれ遊泳水深が規定されていることが報告されてきた。今回の研究では、2010年に黒潮終端部である千葉県沖において実施された、ポップアップタグ(衛星通信型行動記録装置)を用いた行動追跡実験の結果を解析した。放流した個体の内の1個体は、従来の報告と同様に、放流場所から南東へ移動し、黒潮外側域に到達した(以下、個体A)。一方、他の1個体は、放流場所から北東へ移動し、黒潮親潮混合水域へ到達した(以下、個体B)。全球環境モデルHYCOMのおよびポップアップタグの水温データに基づいて、個体Aは比較的高水温を経験し、個体Bは低水温を経験していたことが分かった。高水温を経験した個体Aは、従来の報告と同様の日周鉛直移動の特徴を示していた一方、低水温を経験した個体Bは、昼夜を問わず、従来の報告よりも浅い水深を遊泳しながら日周鉛直移動を繰り返していた。また、個体Bの遊泳水深は、光環境の指標(月齢や月高度、太陽高度)を制御要因とした偏相関係数によって、水温との間に有意な正の相関が認められた。この傾向は昼間および夜間において認められ、ニホンウナギは低水温を経験すると、遊泳水深が浅くなることが分かった。この結果から、産卵回遊を行うニホンウナギは、昼夜を問わず、光と水温の影響を複合的に受け、その遊泳水深を決定しているものと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、地磁気を記録するポップアップタグを用いたニホンウナギの放流実験を新規に実施する予定であったが、産卵回遊を開始したばかりの個体(銀ウナギ)を入手することができなかった。そこで今年度は、過去に蓄積された放流実験の結果を解析した。新規の放流実験は次年度以降、実験個体が入手でき次第行う。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記した通り、新規の放流実験は、実験個体を入手できる冬季に再度実施を試みる。また、当初の計画の通り、ニホンウナギの定位方法を明らかにするための粒子追跡実験にも着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた放流実験を実施できなかったため、この放流実験にかかる費用を次年度使用額とした。具体的には、実験個体とデータロガーの購入費、研究用衛星の通信費、および放流場所までの移動費などである。
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