研究課題/領域番号 |
22K14934
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
矢萩 拓也 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (50808029)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 深海 / 軟体動物 / 幼生生態 / 生物地理 / 進化生態 |
研究実績の概要 |
本研究では、浅海から深海まで幅広い環境に生息し、付加成長する殻をもつ点で初期生態研究において優れた分類群である軟体動物を材料として、貝殻化学分析に基づく幼生行動履歴の復元、飼育・遺伝学的解析による分散動態の推定、ならびに、深海・浅海性近縁分類群における幼生生態比較を行うことで、深海底生生物の分散生態と進化的背景、生態系の成立過程を評価する。 令和5年度の実施内容を以下に示す。(1) 学術研究船「白鳳丸」によるKH-23-5次航海に参加し、日本とドイツの国際共同研究員と共に、千島海溝および日本海溝の水深3400 mから8000 m における底生生物の種多様性および水深分布の大規模調査を行った。同航海では、深海耐圧カメラを用いて、海底環境や曳網機器の動作を記録し、観測手法の改善に繋がる知見を取得しつつ、計41度の曳網調査を実施することに成功した。また、(2) 深海熱水噴出域や浅海域に生息する腹足動物を材料とした、貝殻化学分析に基づく幼生行動履歴復元に関する研究成果を原著論文としてまとめ、国際学術誌に投稿した。さらに、(3)深海熱水噴出域に生息する系統と近縁である、岩礁・干潟の転石下や沈木などの還元的環境に生息するユキスズメ科腹足類について、地理的分布の把握、集団遺伝学的解析、幼生・成体の飼育観察を実施した。深海および浅海域における底生生物の幼生生態進化に関するデータを含む、生物地理学的に新規な知見をまとめ、国際学術誌上での公表に向けて準備を進めている。以上の成果について、第71回日本生態学会および2023年日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会にて発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度の学術研究船「白鳳丸」KH-22-8次航海に続いて、KH-23-5次航海に参加し、千島海溝および日本海溝に生息する底生生物の生態学的調査を実施した。また、浅海から深海に生息する軟体動物を研究材料として、飼育観察、遺伝学的解析、貝殻化学分析に基づく生育履歴環境復元を行い、深海底生生物の初期生態と進化に関する新規の知見を得ており、本課題研究は順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査航海で採集された底生生物標本について、形態および遺伝子情報の対比に基づく種分類を進める。また、プランクトン採集や貝殻の化学分析に基づき、熱水噴出域固有種を含む深海底生生物の浮遊幼生期における空間分布を評価する。深海性種および近縁の浅海性系統について、幼生生態を対比する。深海底生生物における海洋分散動態および進化的背景、深海生態系の成立過程を考察し、国際学術誌上での成果発表に向けて、原著論文化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の物品費、旅費および人件費の使用計画を見直し、次年度使用額が生じた。当該助成金および翌年度請求する助成金は、生物採集、飼育観察、遺伝子解析および化学分析に伴う物品費、調査・学会参加における旅費、論文オープンアクセス費への使用を計画している。
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