本研究では,海の主要な基礎生産者である珪藻と,漁業に有害な種を含み物理的鉛直移動が可能な鞭毛藻を対象とした。植物プランクトン12種(珪藻9種,鞭毛藻3種)の種ごとの熱放散能(NPQ)の最大値を比較した。珪藻1種と鞭毛藻1種で低NPQ種が見つかり,これら2種は熱放散以外の強光回避機構(鉛直移動による物理的回避を含む)を持つことが示唆された。続いてこれら12種について,リン制限下(バッチ培養)におけるNPQ変化の違いを比較した。9種(珪藻が7種,鞭毛藻2種)はリン制限下では熱放散による光防御が十分でなく光合成収率が低下し,リン制限下で強光ストレスを受けやすくなることが示唆された。一方で残りの3種(珪藻1種,鞭毛藻2種)はリン制限下のおいても高い光合成収率を保った。連続培養系にて12種の内3種について,リン制限下におけるNPQ変化の違いを比較したところバッチ培養で得られた結果と概ね同じ傾向が得られた。これらの培養実験から,1)一部に潜在的なNPQ能が極めて低い種がいること,2)珪藻の内の多くが低栄養と強光の複合ストレスに弱い傾向があること,3)珪藻にも鞭毛藻にも貧栄養かつ強光下に有利な種と不利な種が混在していること,4)同じ属でも種によってこの複合ストレスへの応答が異なる場合があること,が示唆された。 また本研究期間の2年間,広島県呉市沿岸にて夏季に週1回現場植物プランクトンモニタリングを実施したところ,日照時間の増加および表層のリン濃度低下とともに珪藻類の属遷移が確認でき,上記培養実験で得られた種ごとの強光防御機構の差と矛盾ない結果であった。今後は本研究で得られた強光防御機構の違いが実際の増殖速度に及ぼす影響について更に研究を進めていきたい。
|