研究課題/領域番号 |
22K14953
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
梅田 剛佑 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(南勢), 任期付研究員 (20792443)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ウナギ / JEECV / 血管内皮壊死症 / 血管内皮細胞 |
研究実績の概要 |
ウナギのウイルス性血管内皮壊死症は、Japanese eel endothelial cells-infecting virus (JEECV)と呼ばれるウイルスを原因とする疾病であり、病魚は鰓や肝臓、腎臓など全身に出血・鬱血を生じ、重症時には死亡する。養鰻において被害額の大きい本病であるが、根本的対策はこれまで確立されていない。本研究ではJEECVに対するワクチンの開発を見据え、ウイルスを容易かつ低コストで培養する方法の開発を試みるとともに、JEECVによるウナギの細胞への感染機構の解明を目指す。 初年度である当該年度は、主にウナギの血管内皮細胞の培養と、これを宿主としたJEECVの培養とを試みた。ウナギから心臓動脈球を摘出、細胞分散処理を行ったのちに培養を継続した結果、この組織から株化細胞を作出することに成功した。この培養細胞は血管内皮細胞の特徴であるDil標識アセチルLDLの取り込み能を示し、現在約30継代目まで培養を継続している。この細胞を温度別に培養したところ、増殖は30℃と25℃で早かったが35℃ではやや遅く、37℃ではほとんど見られなかった。また、この細胞に対して血管内皮壊死症病魚の鰓磨砕液濾液を添加したところ、4~7日後に、核の肥大や細胞の剥離といった細胞変性効果(CPE)が見られた。ウイルス液添加後に温度別に培養し、qPCRにより培養上清中のウイルスDNA量を測定したところ、ウイルスDNAの増加は25℃で最も早く、次が30℃で、35℃では増加はほとんど認められなかった。培養ウイルス液をウナギに腹腔接種した感染試験では18日間で30%のウナギが死亡し、症状を呈した個体も見られ、死亡魚からは本ウイルスが検出された。 次年度は、当該年度に開発したウナギ血管内皮細胞およびJEECVの培養法を用い、ウナギおよびウイルスのトランスクリプトーム解析を実施予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウナギの心臓動脈球から血管内皮細胞の培養細胞株を樹立し、長期間培養することに成功した。ウナギの血管内皮細胞の培養に関しては過去に他の研究者による報告があるが、この時の培養細胞は当時の研究機関では既に保管されていないとのことであったため、今回再び細胞株の樹立に成功した意義は大きい。今回の培養血管内皮細胞は-80℃での凍結・解凍後も増殖を再開し、JEECV感染に対する感受性を再び示したことから、適切に管理すれば長期の保存も可能と考えている。また、培養容器を変更するなど、過去に報告されていたよりも培養方法の低コスト化を進めることにも成功している。in vitroで培養したウイルスをウナギに腹腔接種することで症状の再現にも成功しており、今後も安定的に試験を実施することが期待できる。 また、病魚の飼育水を用いた試験ではあるが、水を介してJEECVの感染が伝播しうることを示すことができた。これにより、腹腔へのウイルス液の接種よりも自然な経路でウイルスが侵入・感染した場合のウナギの免疫応答、ウイルスの増殖の過程を観察することが可能になった。ウナギの血清中の抗JEECV抗体を検出するELISA系の開発にも成功しており、ウイルスを含む飼育水でウナギを浸漬攻撃した際に感染が成立しているのか、またJEECVに対する免疫が成立しているのか、など評価できるようになった。これらはJEECVに対するワクチンの開発を進める際にも有用と考えられる。 これらの点から、本研究課題についてはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
培養血管内皮細胞およびJEECVに非感受性のウナギ培養細胞株の培養液にJEECVを含む培地を添加してin vitroでの攻撃を行う。これらの細胞からRNAを抽出し、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を実施する。感染/未感染、感受性/非感受性の細胞の間で遺伝子発現の比較を行い、発現変動遺伝子を特定する。また、未感染の感受性細胞と非感受性細胞の間の発現変動遺伝子のうち、細胞表面タンパク質をコードする遺伝子をGene Ontology等を活用して特定し、ウイルス感染の受容体候補として選抜する。選抜した遺伝子については新たにプライマーを設計し、ウイルス攻撃後時系列的に抽出したRNAサンプルに対するRT-qPCRにより発現の傾向を確認する。加えて、JEECV側の遺伝子についても時系列的に発現を観察する。JEECVの遺伝子は数が少ないため、プライマーを設計してRT-qPCRにより各遺伝子の発現を定量することを検討する。 また、培養ウイルス液を用いてウナギに注射攻撃または浸漬攻撃を行い、in vivoでのJEECV感染時におけるウナギの遺伝子発現変動を調べる。ウナギの免疫系がウイルスにどのように反応しているのか、感染後のウイルス量の変動にも注意しつつ解析する。攻撃試験の際には経時的にサンプリングして各個体の鰓・腎臓・肝臓の病理組織学的解析も実施する。また、細胞の増殖は遅いもののJEECVの培養が可能になったため、なるべく高濃度にJEECVを増殖させる方法を検討するとともに、培養したJEECVをホルマリン等で不活化後にウナギに投与し、不活化ワクチンとしての効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究計画においてはJEECVを培養するため、宿主細胞となるウナギの血管内皮細胞株の樹立を試みることとしていた。しかし、組織からの細胞株の樹立は確実な成功を見込める性質の実験ではないため、代替策としてウナギやその他の魚類に由来する既存の培養細胞株を用いて培養を試みることや、組織切片のレーザーマイクロダイセクションによる感受性細胞の分離などを予定していた。幸いにして研究を開始後、比較的早い段階において血管内皮細胞株の樹立に成功した。これによってJEECVのin vitro培養が可能となり、予定していた代替策の一部を実施する必要がなくなったため、当初予定していたよりも少ない額の助成金で研究を進めることができた。ここで生じた次年度使用額は、よりスケールアップしたウイルス培養に用いるとともに、感染からの時系列も新たに考慮に入れた比較トランスクリプトーム解析の実施に使用する予定である。
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