研究実績の概要 |
本研究課題は令和3年度に獲得した、シラカンバの外樹皮に多く含まれる天然化合物「ベチュリン」に対する反芻胃内細菌群の応答を明らかにすることを目的とする。申請者はこれまでに、ベチュリンがウシ代謝性疾患「ルーメンアシドーシス」の起因菌として知られるStreptococcus 属細菌の増殖を抑制するという独自の知見を得ている。本研究では最先端の遺伝子解析技術と古典的な嫌気的純菌培養法の両方を用いて、反芻胃内に生息するその他の多様な細菌群(細菌・古細菌)のベチュリンに対する応答を遺伝子レベルおよび純菌レベルで明らかにする。本研究で得られる成果は反芻胃内発酵を調整する新規素材の開発において重要な研究基盤となり得る。 2022年度は、ベチュリンが人工培養系におけるルーメン細菌叢・古細菌叢構成に与える影響を調査した。ルーメン発酵を模したin vitro人工培養系において、ベチュリンを終濃度で300 μg/mlとなるように調製したベチュリン添加区と無添加区を設け、24時間の嫌気培養を行った。培養終了後の培養液から微生物DNAを抽出し、次世代シークエンサーMiSeqで配列を決定後、細菌叢構成を解析ソフトウェアQIIME2により決定した。ベチュリンの添加により存在比が増加する・低下する系統グループを遺伝子レベルで特定した。 また、ベチュリンが代表的ルーメン細菌の純菌株の増殖に与える影響を調査した。代表的なルーメン細菌の菌株合計7株を用意し、それらを純菌で嫌気的に培養した。ベチュリンを終濃度で18.75, 37.5, 75, 150, 300 μg/mlとなるように調製した培地にこれらの純菌を継代し、その後の増殖をモニターした。取得した増殖プロファイルから各菌株の最小生育阻害濃度(MIC)を算出し、ベチュリンのルーメン細菌群に対する抗菌スペクトルを明らかにした。
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