熱刺激によって細胞内では小胞体ストレスが引き起こされる。過去の研究では、ブロイラーに小胞体ストレス軽減薬として知られる4-フェニル酪酸(4-PBA)を給与することにより、暑熱によるブロイラーの体温上昇が抑制されることが見出された。本申請課題では、暑熱下のブロイラーにおいて小胞体ストレスがどの組織で体温調節に影響したのかを明らかにする他、in vitro試験による小胞体ストレス軽減効果のある資源の探索を目指した。まず、4-PBAと同様に小胞体ストレス軽減作用を持つことが知られるタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)を10日間給与したブロイラーを急性暑熱(36℃ RH50%、2時間)に曝露した後、暑熱に伴う傷害を受けやすく、体温調節にも関わりが深い、骨格筋(浅胸筋)、脳(全脳)、腸管(空腸上皮)の小胞体ストレス度合いを調べた。全ての組織で暑熱区では小胞体ストレスが増加した一方、TUDCA給与によって有意な小胞体ストレスの軽減が確認されたのは脳だけであった。また、TUDCA給与では体温上昇の抑制効果は見られなかった。したがって、脳での小胞体ストレス軽減は体温抑制に寄与しないことが明らかとなった。続いて、小胞体ストレス軽減作用のある資源を探索するため、100種類の既知の化合物からなる天然化合物ライブラリを対象とし、小胞体ストレス誘導遺伝子の転写抑制効果を有する化合物を探索したところ、植物由来フェニルプロパノイドの一種では小胞体ストレス応答経路であるIRE1-XBP1シグナルの活性が増強することによって、熱誘導性ストレスが緩和されている可能性が示唆された。本研究によって、体温調節に関わる組織と小胞体ストレスとの関連性の一端が明らかになった他、小胞体ストレス減弱化に働く可能性のある天然化合物の同定に成功した。
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